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And Then ~すべては、そこから…~

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そうグズグズ迷っているうちに、あすかが戻ってきてしまった。

あすかは、席に着くなり店主を呼んだ。

「マスター?御代わり。あと、徳野さんにもね」

「えっ?あっ、いや…、その……」

と徳野が言葉を探しているところに、即座にマスターがやって来てグラスに酒を注ぐ。

「明日、帰るだけなんやろ?なら、沢山飲んでいきや」

えっ?そ、そうだね……。と呟いて無理に笑ってみせたものの、複雑な心境だった。

気弱な性格というものは、どうしてこうもあっさりと押し切られてしまうものなのだろうか、と。

徳野は、なみなみに注がれた酒を零(こぼ)さないように口をつけ、そのモヤモヤした気持ちと一緒に飲み込もうとするも、やはりスッキリとはしなかった。

「マスター?私は、半分でいいからね」

「何言ってんだい、あすかちゃ〜ん。おじさんのおごりなんやから、沢山飲んでいきや〜。どうせ、明日休みなんやろ?」

「そう?なら、頂いちゃおうかな〜」

何気なく二人の会話を聞いていた徳野は、あすかを見やった。

えっ?危うく持っていたグラスを落としそうになる。

な、何故?と聞いたつもりが言葉にならなかった。

あすかが、いつの間にか自分の隣の席に座っていたのだ。

徳野はお酒に集中しすぎていて、あすかが移動したことに気づかなかったらしい。

徳野は久し振りに、保子以外の女性を間近で眺めたような気がした。

きめの細かい肌は、二十代と言っても通用するくらいツルンとしている。

それに、柔らかそうな髪だって、こうやって間近で見なければ分からない。

許されるなら触れてみたい、という衝動に徳野は駆られる。

ダメだ……、酔っ払ってきた。徳野は小さく息を吐いた。

「え〜?もう、酔っ払っちゃったの?」

えっ?いや…その…まだ……。慌てた徳野は、しどろもどろになりながら答え、そして自分に詰め寄るあすかから体を離す。

言うつもりもなかった言葉が、ついポロッと出てしまうのだから、やはり酔っ払っているに違いない。

「さっきの電話、彼氏?」

普段の徳野なら、絶対にこんなことは聞かないはず。

なのに、どうしてだろう。今こうして、あすかに質問をしている自分がいる。

「気になる?」

そう言って、あすかが無邪気に笑う。

「もし彼氏なら、早く帰ってあげないと」

「いいの」

「どうして?」

「遠距離だから。それに、明日の予定もキャンセルになっちゃったし」

「東京と、岡山か……。近いようで遠いな……」

徳野は、独り言のように呟いた。

それにつられ、あすかも、遠いね……、と呟く。

「ねぇ、徳野さん?明日、帰るんだっけ?」

「えっ?あっ、まぁ……。その予定だけど……」

徳野の鼓動が早くなる。自分は、何を期待しているのか。

「まっすぐ帰っちゃうの?」

「い、いや。少し、岡山を散策してから帰ろうかな……、なんて思って……」

別にそんなことを言わなくてもいいのに、徳野は素直に告げていた。

小さな期待感が、徳野の中に芽生えた瞬間でもあった。

「良かったら、私が案内してあげようか?こう見えて、意外に詳しいのよ。でも、イヤだったらいいけど」

「い、いや、別にイヤじゃないけど……」

語尾が少し震えた。

今日の自分はどうしてしまったのだろう、と考えるものの、隣で無邪気に喜ぶあすかを見ているうちに、そんなことはどうでも良くなっていた。

それから徳野は、暫くの間あすかと他愛も無い話をしてから、携帯の番号とアドレスを交換し合った。

徳野の唯一の女友達としてあすかの名前が登録された瞬間、少し不思議な気持ちになった。

この歳で、友達の登録件数が増えるとは夢にも思わなかったのだ。

徳野は、しみじみと登録されたあすかの名前を見やってから、携帯をスーツの内ポケットにしまった。

明日の予定を簡単に決めた徳野は、あすかと別れホテルへと戻った。