ゾンビ・ウォーク
全ての元凶は、このスマホのアプリだ。俺はそう結論付けた。俺はスマホの終了ボタンを力いっぱい押して、アプリを終了させようとした。しかし、アプリは終了しなかった。代わりに、地の底から響いてくるような、低い不気味な笑い声が返って来た。
―― くそっ、それならこうだ!
俺はスマホの電源ボタンを思いっきり押した。しかし、いくら押し続けても、スマホの電源は落ちなかった。スマホから響く低く瞑い嘲るような笑い声は、さらにそのボリュームを増す。
じりじりと後ろに下がり続けていた俺は、いつの間にか屋上の角の金網に背中を押しつけていた。俺は頭を上げて、周囲を見回した。俺の周囲には、約2メートルの間隔を置いて、ゾンビどもがひしめきあっていた。すさまじい腐臭が鼻をつく。スマホから響く笑い声、鳴り続ける警告音、そしてゾンビどもの唸り声。俺の耳に耐えきれないほどの音の洪水が押し寄せていた。
俺は完全に追い詰められていた。しかし、俺は希望を失わなかった。まだ、最後の手段がある。
―― それならこうだ!!
俺は手に持ったスマホを裏返し、背面のパネルをむしり取った。バッテリが剥き出しになる。
もうゾンビは手を伸ばせば届きそうな距離に迫っていた。俺はそのゾンビどもを睨みつけながら、スマホのバッテリを引きちぎるように、スロットから剥がし取った。
「これでどうだっ!!!」
そのとたんに、俺の耳を覆い尽くしていた大量の音が消え去った。
周りを見回すと、俺一人取り残された屋上には、裏山から降ろしてくる風が、ビュービューと吹き渡って行くだけだった。
作品名:ゾンビ・ウォーク 作家名:sirius2014