テポドンの危機1、続
ポテトチップを袋のまま頬張りながら、
「よーし、このやろう、見てろ!」
再び、追い始めた洋平、とその後ろを追う、パトカーたち..
「…何か、変だな。まるで自分が追われているような気がする…」
ちらりと後ろを振り返り、そんな思いをかみ殺しながら、洋平を乗せた白バイは、雪道を駆け抜けた。
いくつもの雪に覆われた田畑や民家を通り抜け、洋平たちは三沢の空軍基地へとやって来た。
空軍飛行場の前に辿り着くと。彼らを乗せた車が管制塔の駐車場に乗り捨ててあった。洋平は白バイを乗り捨てて、管制塔を突っ切った。目の前の滑走路には、すでに第一行を乗せた、ジェット機が、今にも飛び立ちそうに待機していた。残りの10人が、硝を引きずるようにして、タラップに向かって走っているところだった。彼らの後を追いかける洋平。
「硝さん!」
その声に、体を倒すようにして後ろを振り向く硝。
「!洋平…」
こちらを向いて必死で助けを求めている。銃弾が後方から何発か鳴り響いた。
警官の一人が、
「威嚇射撃のみだ。絶対に当てるな。上からの命令だ。」
そう、指示していた。
もう一度、何発かの銃弾が空中に響いた。洋平は首をすくめながらも、追いかける手を緩めていない。
「チっ。。。。。。。。」
男の一人が舌打ちをした。洋平の足元めがけて、二三発の銃弾を打ち込んだ。そして、足手間といになりそうな硝の体を突き放した。その場に崩れるように、倒れる硝。そこへ洋平は息を切らせて駆けつけた。
「…硝さん、大丈夫!?」
「…洋平….」
泣きながら硝は洋平の体にしがみついた。
男たちは、既に安心したように、タラップの中にかけこんだ。まもなくして、ゴーというエンジン音とともに、巨大な物体が滑走路を動き始めた。その白い機体は洋平と硝の横を通り過ぎ、やがて轟音とともに、北の空へと飛び去っていった。
「…よかった、硝さん。無事で。」
洋平が彼女を抱きかかえながら、安心した様子で言った。洋平の心の中は北の選手のことなどどうでも良かった。ただ、彼女が無事で自分のそばに居るのが嬉しかった。
「すみません、やつらは取り逃がしました…」
その場に駆けつけた幾人かの警官隊にそう言うと、
「いや、大丈夫です。」
彼らの一人が言った…..
「対空迎撃ミサイル、準備よーし。」
管制塔の中で指揮官が叫んだ。彼の後ろで指示をするのは米軍司令官だった。
ミサイル迎撃用の箱型をした連射式大砲がゆっくりと上空に向かって、角度を上げた。
「攻撃準備…」
しかしそのミサイルが狙っているのは、北からの攻撃ではなかった。
「撃ち方、はじめ!」
その声とともに、連射式ミサイルの何発かが、上空に向かって発射された。その数発が、たった今飛び立ったばかりの、北の選手団を乗せたジェット機の側面に命中した…
!物凄い爆発音とともに、炎に包まれた機体が落下し始めた。どすーん。再び大きな衝撃音と、機体は黒煙を上げて、雪の田園に炎上した….
「?え、な、何!」
驚いたのは滑走路でうずくまっていた洋平たちだった。
「!きゃー!」
まるで、狂ったように全身でおびえる、硝の姿だった。
最後の救世主
この様子を監視カメラで見届け、顔を真っ赤にして激怒していたのは、もちろん北の総書記、キムジョンイル氏だった。彼は真っ赤になった顔をさらに大きく膨らませて、大声で叫んだ。「日本を攻撃せよ。直ちにテポドンを東京に向けて発射する。」
そう命令した。周りの兵士たちは、一斉に準備態勢に入った。同時に、日本の三沢基地にはアメリカから直接指令が届いた。テポドン対空迎撃ミサイル発射用意せよ。
そして、ここアメリカのワシントンホワイトハウスでは、米国海軍、そして空軍ともに日本海を横切り北朝鮮に向けて始動せよとの支持が出された。日本にて指揮を取るのは、司令官パウエル氏であった。「北のミサイル発射と同時に、われわれも全面攻撃に出る。」
総司令官であるプッシュ大統領はラムズ、そしてライサなどを集めて言った。
最大のピンチ。それはキムジョンイル氏かもしれなかった。しかし、今のキム氏に理性が入る余地はなかった。自らの兵士が集団で逃げ出し、しかも彼らが空中で爆墜されたとなれば、それは西側の戦線布告と見て当然だった。
「攻撃準備よーし!」
その声に、キム氏はゆっくりと白いケースの鍵を開け、赤いボタンに手を伸ばし始めた。日本では、砲撃ミサイルのスイッチに司令官の手が伸びていた。日本の厚木の司令室ではパトリオットミサイルのスイッチに固唾を呑んでパウエル氏が、その黒い指を置いていた。
まさに、一触即発。誰にもこの危機は止められないかに見えた。洋平たちの努力も泡となる….
その時、一人の男が、ものすごい勢いで、北の司令部にジープで駆けつけた。大柄の男は片手に機関銃、そして顔には無精髭をはやし、そのまま通用門に入ろうとした。
兵士たちの誰もが驚いた。しかし、男は彼らが制するのも聞かず、中に入った。とめようとするものを片端から銃で撃ち倒し、威嚇射撃を行いながら、専用門までやってきた。その姿を見たとき門兵は恐れおののいた。
「どけ…」
男は、どすの利いた声で、兵士をよけた。
「しかし、ここは将軍様しか….」
おびえながらそういう男に威嚇銃弾が放たれた。
廊下をその男は機関銃で撃ち鳴らしながら、司令室までやってきた。勢いよく扉を開けると、その時まさに、キム氏は赤いボタンに手を押すところだった。
「まってくれ!」
男の叫ぶ声に驚いて振り向いたのはキム氏。そしてその顔を見てさらに驚きを隠せなかった。
「お、お前は…」
「…日本を攻撃するのは止めてくれ….」
「。。。」
驚きで身を動かせないキム氏。それは彼の唯一の弱みであった。
「…親父..日本を攻撃するのは止めてくれ。さもないとこれをぶっ放す。」
「何を言うか、貴様それでも北の総書記の息子か…」
そう、怒鳴るキム氏。しかし、その声には既に力が入っていなかった。
「本当にこれを撃つ…」
そう言って、男は周りの計器の幾つかに銃弾を放った。
「..東京には日本の友人が居るのだ….俺の..ワイフも、そして…」
彼はゆっくりと次の言葉をつないだ。
「東京には俺の子供が居るのだ…」。
そう言うと、銃口をキム氏の胸の辺りに向けた。
「お願いだ、親父…たのむ!」
男の顔は血と汗と涙にまみれ、震えていた…
「!おお、わが息子よ…」
天を仰ぎ叫びながら、拳銃を床に落とし、その場に崩れるキム氏だった。
「親父…」
男は、その場に立ち尽くしていた。
手歩ドン攻撃中止。
それによって最も救われたのはキム氏自身であった。
「どうした、北は撃ってこないのか…」
キムジョンイルの息子がマイクロフォンを持って語り始めた。それは衛星を通じて世界各国に放送された。
“われわれはテポドンの攻撃は中止する…今後核開発も求めない。そしてわれわれは6カ国会議の再開を希望する。ただし、それにはアメリカの武装解除が条件だ。“
「何だって!」
画面に映る、キム氏の息子の姿に世界は驚いた。彼は機関銃を片手に語りかけていた…
世界中が驚き震撼する中、もっとも驚き、そして落胆したのは、かの国であった。
「どうだった、北は乗ってきたか….」
作品名:テポドンの危機1、続 作家名:Yo Kimura