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テポドンの危機1、続

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「急、救急車!早く!!」
上原が雪の地面に尻餅をついたまま叫んだ。

「な、なんて事を!」
上を見上げると、男はチラッと下を伺った様子で、ちっと、舌打ちして中に入った。
「まさに、血も涙も無い連中だ。」
上原の胸に悔しさがこみ上げた。
「首相からの連絡はまだか!」
上原が憤りを露にして当りに怒鳴り散らした。

「…首相。たった今十二階から女性が突き落とされたそうです。幸い、サットの連中が受け止め、命は取り止めたようですが。」
「分かった。早く連中に伝えるのだ。日本側は、チャーター機と輸送車を準備する用意があると。」


 薄暗い十二階の部屋で、洋平は自分に何ができるかを必死で考えた。床の足元に、彼らの部屋に侵入した際持ち込んだ、携帯ラジオが転がっているのが見えた。
「うが、うが、うが(そうだ、こいつに何かできないか….)
後ろ向きになって、組まれた手をラジオのスイッチに向けた。彼らに気付かれないよう、そっとメインスイッチを入れた。ピー、ガガガー…小さな機械音が鳴り、一瞬はっと、驚いた洋平は、今度はバンドの切り替えスイッチに指を伸ばした。
チュー、ガガガー….
AMバンドで、地元のローカル放送が途切れ途切れに聞こえた。さらに、チューニングを進めていくと、ふっと、音声が途切れ、次に不鮮明だが、近距離の音らしい音声が流れ始めた。
「。。。。。」
洋平は注意深く、その不鮮明な音に耳を傾けた。
「…ああ、こちらは特捜本部….」
「うがうがうが(上原さんの声だ!?)…」
再び途切れがちな声が聞こえた。
「こちら特捜本部。全員に告ぐ…ただ今より…特殊部隊突撃準備を始める。」
どうやら、洋平の持ち込んだラジオが、特捜本部の無線をキャッチしたらしい。しかも、それは、これから、強行突破。彼らが占拠するこのフロアーに突撃を開始するというのだ!
「うがうがうが(大変なことになった!)」
「日本側は、彼らのために、輸送車とチャーター機を用意する。しかし、そのまま、彼らの逃走を許すわけには行かない。時を見て出動命令を下す…全員待機せよ…」
「うがうがうが(確かに上原の声で、今まさに出動命令が出されようとしている)」
洋平は、思いがけなくキャッチした情報に我に返った。
しかし、少なくとも、日本側が彼らの要望を飲んだことだけは確かだ。彼らにそれを伝えなければ!!
「うがうがうが!」
洋平は大声で叫んだ!
(おい、早くしろ!) 「うが、うがうが」
洋平の様子の変化に気付いた見張りの一人が、彼の所に近付いた。
「….なんだ、一体どうした!?」
「うが、うがうが(早くこれを取れ。そして硝さんを呼べ!)
体をもがいて訴える洋平に、男は猿轡だけをはずした。
「stop your excursion! Japan will provide the airplane and the transportation! Call sho―san. Hurry up!」
男は、英語はわからないが、どうやらチャーター機、そして、硝の名前だけは聞きとったらしい。不審気な顔で奥に行くと、相変わらず手を組まれたままの硝を連れてきた。
「。。。。。。」
「。。。。。。。」
男は二三、硝と言葉を交わし、司令室へと入っていった。

一対二
日本側の対応を受けて、北朝鮮がひとつの提案を申し出てきた。
捕虜を一人ずつ解放する。その代わりに北の脱藩たちを二人ずつ輸送車に乗せるというものだった。北の選手団の数は24人。捕虜の数は12人。もっとも予想外の洋平と硝を入れると14人だが…
北の選手団12人を乗せた第一陣輸送車がホテルの敷地を後にした。ゆっくりと白い雪煙を上げて、道路を取りか込んだおびただしい数の警官隊の間を通り過ぎていった。第二陣の車にほとんどの脱国者が乗ろうとしたとき、異変が起きた。最後の選手団団長と洋平、そして硝が部屋に残された形となった。その時、屋上から鋭い破壊音とともに幾人かの黒い戦闘服の兵士が入り込んだ。窓ガラスを突き破りまるでサーカスのブランコのように次々とロープにつかまって飛び込んだ連中は、あたりに催涙ガスを打ち込んだ。紛れもないサット特殊部隊の攻撃に、あわてたのは最後に残った北の司令官達だった。二人は潤んだ目をこすりながら顔を見合わせた。そして、一人が猛然と火薬庫に向かって走り出した。もう一人は、すでに抵抗をしながらもサットの連中に捕まっている。男は、最後の雄叫び を上げて、火薬箱を大きく自分の頭の上にかざした。今にもこれを爆破しようという姿勢だ。サット突撃隊の二人がゆっくりと銃口を男に向けながら迫っている。
「火薬庫をおろせ。さもないとこれを撃つぞ」
「。。。。。。。。。。。」
自分を撃てばこの火薬庫もろともみな心中だ。男の意思は明らかだ。
「火薬庫を降ろせ…」
二人のうちの一人がさらに男に近寄ったその時、涙で潤んだ男の目が、何か意を決したように異様に光った。その目が洋平と硝の方を一瞬チラッと窺ったとき。洋平は本能的に危険を察した。
「危ない、硝さん!逃げるんだ!!」
そういう間もなく、男はまるで薄笑いを浮かべたかと思うと、天井に向かって大声を上げた。「キム チョンピル天使、万歳!」火薬庫のスイッチをひねった。男の顔が一瞬のうちに赤い炎で染まったかと思うと、サットの人間も後ろに吹き飛ばされた。炎と爆風が洋平達の方にも迫り、洋平は思わず硝の体を抱き寄せ床に倒れた。爆音が頭に響いて何も聞こえない。一瞬の後、瓦礫や天井のくずが彼らの体を覆うように落ちてきた。洋平と硝はその場に噴煙と埃にまみれて蹲った。
爆風と炎が12階の窓をも突き破り、雪景色の中に響き渡った。上原と、周りの観衆たちもその衝撃を体で感じたほどだった。粉々になった窓ガラスが階上から雪面に舞い降ってきた。警官隊の前部隊と観衆も驚いて飛び下がった。上空を見上げると、サット特殊部隊の幾人かがロープに体を括ったまま、窓から中刷りになる形でぶら下がっていた。

「…上原さん…」
三沢が心配顔で彼の方を向いた。
「うむ…」
上原は何も言わず、ただ口を固く縛って顔をこわばらせていた

 ぱらぱらと天井から落ちる砂煙が洋平の後頭部を覆っていた。さらにもう一塊、どさっという音とともに、天井の壁が落ちた…洋平がゆっくりと目を開けると、あたりは焔と煙で満ちていた。
「…た。助かった…」、
洋平はゆっくりと体を起こそうとした。「あ。痛たた―。」背中の上には天井から落ちたエアコンのカバー。これが幸いして炎と爆風を遮ったようだ。自分の下には硝が蹲ったまま意識を無くしているようだった。洋平は彼女の頬を叩いて引き起こそうとした。
「硝さん。起きて!起きるんだ!!早くここから逃げ出さなくっちゃ!」
そう言う声に、ゆっくりと目を開けた硝だった。
「…よ、洋平…」
「さあ、早く立ち上がって、ここから逃げるんだ…」
作品名:テポドンの危機1、続 作家名:Yo Kimura