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エイユウの話 ~秋~

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 一方、逃げていったラジィを追いかけていたキサカは、人混みの中で彼女を探していた。人工光しかない夜闇で人ごみの量も増していたため、それがとても難しいのだ。不意に、見覚えのある栗色の髪が見えた。
「ラジィ!ラザンクール・セレナ!止まれ!」
 彼女の名前を、彼女に向けて呼んだのは何回目だろうか?当人がそう思うくらい珍しい呼びかけに、彼女は足を止めてくれた。駆けていき、じっとラジィの様子に注目する。赤くはなっていないが、目元が明らかに濡れていた。泣いた証拠がそこに見える。キサカの顔を真正面から見ないのも、彼女にしては珍しかった。そして、明らかに不機嫌だ。つい、ラジィから逃げるように斜め上に向ける。
 入れ違いに、ちらりと視線だけキサカに向いた。
「・・・何の用よ」
「キースに言われて、お前の言いたいことが解った」
 そういうと、キサカは改めてラジィを見た。ラジィの腫れた目と、視線が合う。ちくりと、罪悪感が胸に刺さった。
「俺はお前のことを『キース』というフィルターなしに見たことがない」
「・・・そんなこと、いまさら言いに来たわけ?」
 ふてくされた顔で恨めしくキサカを見つめる、ラジィの灰色の瞳。キサカはそれをしっかりと受け止めながら、特有の自信に満ちた笑みを浮かべた。いつもの調子を取り戻し始める。
「んなわけあるか。俺は宣言しに来たんだよ」
「宣言?」
 怪訝な顔をされるかと思いきや、彼女はぽかんと目を開いた。キサカにつられて、ラジィの調子も戻り始める。それを感じながら、彼は自信に満ちた表情になる。
「これからはお前のこともきちんと見ていく。それが俺のケジメだ」
 ふんっと勢いよく鼻を鳴らすキサカに、ラジィが思わず笑い出す。結果的に振られてしまったことに変わりはないのだが、それ以上、彼女がキサカを責めることはなかった。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷