エイユウの話 ~秋~
ケタケタと笑いあう二人の後ろから聞きなれた声が聞こえてくる。声の主はアウリーだ。キースを連れて二人のほうにかけてくる。この通りには屋台しかなくて、屋台の学生たちもあらかた姿を消していた。彼等四人しかいない。
追いついたキースはラジィの状況に驚いた。彼女は傷つくこともなく、好きだったはずの相手、キサカと心の底から笑い合っていたのだから。
―――なんだかんだ言って、一番彼女を把握していないのは自分かもしれない
そんな不安にも似た感情が彼を襲う。けれども、彼は笑えた。その場の雰囲気が、その感情を押し殺す手伝いをしてくれたのだ。
一通り笑った後、ラジィは元気な声で言った。
「さ、後夜祭会場のほうに行きましょ」
号令をかけて、さっさと後夜祭会場のほうへ歩を進める。焦りすぎだと言いながら、キサカも楽しそうに続いた。アウリーとキースは互いの顔を見て笑い合ってから、足を踏み出す。
そのときだった。
「ケルティア君、ちょっといいかな?」
キースは声のするほうに振り返る。そして声をかけてきた人物を見て足を止める。
半歩先を歩いていたアウリーは、キースが足を止めたのに気付かない。そんな彼女の背に、キースから声がかかった。そこで初めて、彼を置いて歩いていたことを知る。彼女が戻ろうとすると、それを制止して告げてきた。
「先に行ってて、後で追いかけるから」
笑いながら、彼女に手を振ってきた。自分だけに振られるその手に、うれしさがこみ上げた。了解の意を伝えると、みんなとは逆の方に歩き始める。少し彼を見送っていた彼女に、今度はラジィから声がかかった。振り返ると、二人が足を止めて待っている。彼女は慌てて二人を追った。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷