エイユウの話 ~秋~
彼女をどう思っているか?
それがアウリーなら、友達だ。でも、どういう友達かと口下手な彼に言わせれば、たぶんそれは癒される存在、いて楽しい存在なのだろう。また、無意識ではあれど好意の対象であり、共にいることを望む相手だ。
それがキースなら、憧れだ。憧れであり、同胞であり、理解しあえる貴重な存在である。また、対等なやり取りを肯定的に出来る相手だ。もしかしたらそれは、親友と言う段階にまで至れるのかもしれない。
しかしそれがラジィなら。そこにあるのは友達と言えど、キースの好きな相手だと言う前提が消えない友人であり、それゆえの気遣いが生まれていたことも否めない。喧嘩をすることが出来る相手と言うのもある意味大切な存在だが、ただの喧嘩友達と言うには、あまりにも生易しい。キースが絡まなければ喧嘩もしなかったし、もともと二人でいて平気という存在とは言いがたかった。果たしてそれを、友達といっていいものか?
キースは座り込んでいたキサカに手を差し伸べた。怒りを流したわけではない。でも、キサカがそこまで考えずに返してしまったことを推測できないわけでもなかった。悪意がなかったことは、しっかり理解できているのだ。
「考えたことがないなら僕は責めないよ。でも、きちんと彼女にそれを伝えるべきだ」
いつものような微笑でそう諭してきたものだから、キサカは思わず失笑した。手を取って立ち上がりながら、ニヒルな笑みを浮かべる。
「別人だろ、お前」と愚痴ると、
「どっちも僕だよ」と飄々と返された。
二人のその様子をアウリーはおどおどとした様子で、不安そうに二人を見ている。女子には解らないやりとりなのだろう。ちょっとした悪戯心から、キサカはキースの脳天にこぶしを落とす。綺麗につむじに落ちたため、彼は即座にへたり込んだ。心配したアウリーが駆け寄る。キサカはこぶしを見せながら、悪ガキのように笑った。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷