エイユウの話 ~秋~
「何を言ったの?」
「は?どうしたキース、らしくないな」
いつも通りにしているよう努めているせいで、おちゃらけたような口調になる。すこし声も上ずっていて、いつもの自信も見られない。キサカの努力もむなしく、キースはいつもとは違う様子のまま彼をにらんだ。
「ここに来る前に見たよ。あのラジィが泣いてた。どういうこと?」
いくら相手が激昂していようと、いくら恋愛に興味が無かろうと、友人の好きな子に告白されたなんて残酷な話を出来るほど、キサカは無神経ではない。結果、キースから視線をそらした。弱気になって、背中をまた広葉樹にたたきつける。皮一枚で繋がっていた枯葉たちが、パラパラと落ちてきた。
「俺が関係する確証は無いじゃねぇの。落ち着けって」
「確証はあるよ!彼女は好きな人に関係しないことで泣くほど、弱い人間じゃない!」
キースの大声に、アウリーとキサカが目を丸くした。アウリーは気付かなかったその事実に、キサカはキースが知っていたという事実に、だ。祭の音が一段と大きくなり、太陽はほぼ沈みかかった。後夜祭に向けて移動していく生徒たちは、どんどん会場である奏の闘技場に続く道に移動する。真ん中の中庭は、通り道として一時的に混雑し始める。
「知ってたのか」とキサカはこぼした。周りに聞こえないように。知っていたという事実が、彼をどんどん弱気にさせた。目を据わらせたまま言葉をつむぎだす。
「いや、でもおれ、お前の好きな人しか思えないって・・・」
言った瞬間キースのこぶしがキサカの胸に飛んだ。肺の上を思いきり叩かれたキサカは、げほげほとむせ返る。キースはそんな彼を見下ろすように立っていた。後ろでアウリーが目を覆っているのが見える。好きな人に勝手にその思いを告げてしまったのだから、殴られるのは当然のことだとキサカは思った。が、キースが人を殴るまで怒りが達した原因は、別のところにあった。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷