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エイユウの話 ~秋~

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「それ、僕へのプレゼント?」
 驚いて振り返ると、そこにいたのは確かにこれを渡す相手であるキースだった。ごった返した人混みの中で、金色の髪が目立たないようにフードを被っている。外部から来場者が来るときは、大抵こうしてごまかしていた。呆然としているのを見た彼が、あわてて告げてくる。
「いや、見てないよ!払うところが見えたから来ただけで・・・」
「あ、大丈夫です、そこは」
 あわてる姿にときめきながらも、宥めるように優しく告げた。もらうものを事前に知るというのは、フェアじゃないと判断したのだろう。不公平な扱いを受けていながら、あくまで他人と公平であることを望んでいる。いや、受けているから、余計になのだろう。そんな思考が洩れた一瞬だ。
 ほっと胸をなでおろしながら綺麗な顔をふわりと崩して、待ち合わせまで一緒に行くことを提案してきた。アウリーとしては、後夜祭に誘うまたとないチャンスである。もちろん喜んで承諾した。誘える自信はさらさらなかったが。
 人混みの中を、広葉樹めがけて歩いていく。まだまだ待ち合わせ場所は先だが、アウリーはすでに気が焦っていた。近付くに連れて、ほかの二人と会う可能性があるからである。別に思いを知られているので邪魔はされないのだが、気持ちの問題だ。
 勇気を振り絞ってアウリーが彼の名を呼んだとき、向かい側から見知った少女が駆けてきた。アウリーの方を見なかった代わりに、彼女を見て嬉しそうに笑う。遅れて気付いたアウリーだったが、言葉を続けられなくなった。彼は彼女に手を振る。
「あ、ラジィ。迎えに・・・」
 彼の思い人は、足を止めずにその隣を走り去った。笑っていた彼が驚いた顔で凍りつく。状況の読めないアウリーは、ラジィの駆けていった方向と、呆然と立ち尽くすキースを交互に見やった。キースは振った腕をゆっくりと下ろして、開いていた手をぎゅっと握る。フードから金色の髪がこぼれて、彼の表情を隠した。
「何したんだよ・・・っ」
 珍しく怒りをあらわに、キースはラジィの走ってきた方向に進み始めた。その行動に疑問を持ちながらも、とりあえずキースを追う。今、この混雑の中で背の低い自分が、ラジィを見つけることは不可能だと判断したのだ。
 中庭はとても静かで、一人たたずんでいたキサカを物悲しく見せる。彼は二人を見つけると、広葉樹から背中を離した。その表情は、祭の雰囲気や待ち合わせを提案して人間には似つかわしくないものだった。会いたくなかったように見える。しかしキースはそんなことに構わなかった。速度を緩めずキサカに近づいた彼は、激昂した様子で詰問する。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷