エイユウの話 ~秋~
「ちょっとした疑問ぐらい教えてくれたっていいじゃないの」
するとキサカが、うざったそうに見てきた。たくましい彼の顔は、ゆがむと一気に悪人面になる。この刺すような目に敵意をぶつけられたら、どれほど怖いだろう。
「お前は質問が多いんだよ。女の典型」
そういって、すぐに視線をそらしてしまった。堪忍袋の緒が切れたラジィは、目の前に回りこむと、大声で怒鳴り込んでやった。
「どうしてそうやって女の子に偏見持つのよ!」
祭の音が邪魔して、意外と声は埋もれてしまった。だが、近くにいたキサカの耳にはつんざくほどに聞こえたようだ。彼は腕を組んだままプルプルと反れた体を震わせると、怒りのあまり同じような音量で怒鳴り返してくる。
「『女に偏見を持つ』っていう考えが偏見だっての!」
「じゃああんたにとってあたしって何なわけ?」
「なんでそれだけ引っ張んだよ!」
「重要なのよ!」
「どこがだよ!」
いつもと同じような喧嘩のはずが、その歯車がどんどんずれている。しかし二人とも、特にラジィはそのことに気付けなかった。そのせいで、本人すら気付かぬうちに感情で返してしまっていた。
「あたしにとって、あたしがあんたにどう思われてるかは重要なの!」
「じゃあ、お前は俺のことどう思ってんだよ!」
少し困ればいいと思って、キサカはオウム返しに質問する。しかしそれはラジィの理性を崩壊させるのに事足りてしまった。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷