エイユウの話 ~秋~
「なんで探してるのかしら?」
しかしキサカが無視をしたので、もう一度、少し音量を上げて、はっきりとくり返す。
「な・ん・で・探してるのかしら?」
「キャンプファイアーだろ」
キサカは背中を向けたまま答える。こちらを向く気は無いらしい。言い方も態度も気に入らなくて、厭味ったらしく細かい訂正を入れる。
「後夜祭もしくはダンスパーティーって言ってくれない?」
後夜祭では男女がペアになって踊るという、典型的な恒例行事が行われている。が、これに誘うこと、それすなわち告白である・・・なんていうロマンチックな要素は無い。しかしそれが逆に幸いして、憧れの子と一緒に踊りたがる人であふれている。ジャックも例外ではないというだけだ。実際は、その事実を知らない生徒の方が少ないくらいだが。
「でもやっぱりそうなのね。カフェの仕事が同じだったから、その時なんかそうかなって思ったのよ」
ラジィは合点がいったように何度もうなずいた。彼女の知らないところで、言い表せないもやもやに絡まれたキサカは、枯葉を落とすように乱暴に飛び降りた。ラジィの頭の上に紅葉を通り越して、水気の無くなった朽葉が落ちてくる。もちろん注意を受けた。
「気をつけなさいよ!」
「そこでぶつぶつ言ってる奴が悪い」
らしくない理不尽な発言・行為の連発に、ラジィはいらだつ。朽葉を落としながら、飄々と広葉樹にもたれかかる彼をにらんだ。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷