エイユウの話 ~秋~
「珍獣ジャックだわ、誰か探してるのかしら?」
ただの素朴な疑問だったのだが、キサカを不機嫌にするには充分すぎた。解りやすく眉をひそめると、ラジィを胡乱気ににらみつけた。
「どうでもいいだろ、紛らわしいことすんな」
原因を知らないラジィは、そのキサカの態度に怒りを覚えた。
ジャックには真っ赤な瞳と言う特徴がある。綺麗と言えば長所だが、それは怖いと言われることも少なくないものだ。おかげで、ひどく差別的に届いてしまっていた。そしてまたそれは、外見や噂による人間の好き嫌いを嫌う彼女には、許せない事でもある。
「困ってるなら助けるべきじゃないの?」
「助けるべき?どうせあいつが探してんのはアウリーだろ」
「解ってるなら、よけい助けるべきじゃないの」
ラジィは理不尽な彼をじろりと見たけれど、すでに背中を向けられた後だった。
不意に声をかけられた。振り向くと、おどおどとジャックが歩をこちらに進めている。おびえているというよりも、緊張しているといった雰囲気だ。
「あの、ラウジストンさん、います、か?」
キサカの予想は当たった。何故解ったのだろうと不思議がりながら、ジャックを観察する。小柄だが、決して貧相な体格ではない。あの運動神経から考えれば、それはすぐ解ることだが。カーキ色の頭髪は短く切られていて、ぼさぼさ頭のキサカに比べると清潔感があった。総合すれば小柄なりにも俗に言う、スポーツマンタイプというやつだろう。そしてやっぱり、あの赤色の瞳は眼を惹かれる。
「アウリーはまだ来てないわよ。探してるの?」
「あ、えと、ちょっと」
それだけで、彼はさっさと走り去ってしまった。
後姿を見送りながら、ラジィは疑問を抱く。なぜアウリーを探しているのか、そしてキサカがなぜここまで不機嫌になったのか。予想もつかないわけではないが、わざとらしく声に出して尋ねる。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷