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エイユウの話 ~秋~

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 待ち合わせまで残り十五分前。少し早いかと思いながらも、ラジィは中庭にたどり着いた。
 きょろきょろと周囲を見渡しても、まだ誰の姿も見つからず、一番乗りかと心なしか嬉しくなる。が、そんな些細な喜びは、すぐに打ち消された。
「なに気持ち悪い笑い方してんだ」
 声の主を特定しながら、よく集まる院内一背の高い広葉樹を見上げた。木の上に、器用に寝そべっている男がいるのが視認できる。薄紅色の髪が、夕日によってその濃度を上げていた。どれほど前に来ていたのだろう。悠然と風を受ける彼の腹には、紅葉した広葉樹の葉が何枚も落ちていた。ラジィは視線を下げて、勢いよく息を吐く。そこには呆れ以外にも、至福を邪魔された怒り、そして一番乗りでなかったという残念さもこもっていた。
「この上に登っていいわけ?」
「駄目とは書いてない」
 根拠もないのに自信満々で、ラジィは思わず笑ってしまう。彼はいつもこうだ。何にも縛られず、何にも従わず、他人に評価さえ気にもしない。自分の道が正しいと、疑っていないのだろう。そこには心の強さが確かに窺えた。
――ホント、何もかもが違うわね
 勝手に比較して、流されっぱなしの自分を皮肉った。
 キサカの寝転がるその木の下に、ラジィは寄りかかった。少し葉っぱが降ってきたので、それをぱっぱと払った。ふと、正面を向く。小さな連絡通路越しに、雑貨を取り扱う屋台街が見えた。その光景はまるで一枚の絵画のようで、自分たちがいるこの静かな空間とは遮断されているような感覚すらある。暗くなる前にさっさと灯された、提灯のぼんやりとした明かりもそれを助長している。
「あ」
 彼女の声に、キサカが反応する。誰かが来たと判断したのだ。が、誰も広葉樹の元には来ない。なにがあったのか尋ねると、ラジィはその先を指差した。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷