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エイユウの話 ~秋~

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 演劇が終わってから、自由時間になるまで、それほど時間を感じなかった。しかしそれはみんなと久々に会えることに鼓舞したわけではない。単純に、死ぬほど忙しかったのだ。
 くたくたになった体を引きずって、キサカは屋台を抜ける。続いて屋台の外へと出てきたキースは、外の風景の変化に驚いた。
 知らないうちにかかっていた旗は後夜祭用の提灯に変わっており、会場を包む雰囲気も後夜祭一色だった。太陽が上で燦燦と光っているのに、みんなは月の出番を待っている。火のない提灯が、風に揺れてゆらゆらと宙をたゆたった。もう少し暗くなってから、明の術師が火を灯すのだろう。
 風景に感動するキースとは打って変わって、缶詰状態の単調作業で、疲れも極限に達したキサカは腕を上に立てて伸びをする。
「暑かった、むさかった、きつかった、飽きたー!」
「文句ばっかだね、キサカ」
 そうたしなめつつも、同意する感情はキースにも満ちていた。換気の悪い屋台で、男ばかりがぎゅう詰めになって、だらだらと汗を流しながら同じ作業を延々と行う。それは結構な修羅場だった。はたから見たら、地獄絵図ってやつだろう。
 キースはまだつけていた前掛けを取ると、綺麗に折りたたんで鞄にしまった。それを見てキサカも、はずした前掛けを畳まずにぎゅうっと鞄の中に突っ込んだ。おかげで同じ中身なのに、キサカのかばんは見た目がパンパンになる。
 彼は踵を返すと、キースにわざわざ大きく手を開いて笑った。またな、と言う動作のようだ。
「なあ、二人で周ってもつまんねぇから、俺たちも中庭集合にしようぜ」
「そうだね。そのほうが楽しみも増えるし」
 その返事を聞くと、どこにそんな体力があったのか、キサカはお面やくじ引きなどが羅列するほうの屋台街へ駆け出して行く。
 彼の体力の底知れなさに驚きながらも、キースは自分のペースでのんびりと同じ方向へ歩き始めた。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷