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エイユウの話 ~秋~

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 厨房でフライパンを片手にラジィは後悔していた。
 彼女の後悔というのは言うまでもなく自ら謝罪したことなのだが、その中でも理由というのが首を絞めているのだ。
 キースと喧嘩をしている間、ある噂が耳に届いた。
――あのラザンクール・セレナが、金髪迫害思想に賛同した
 当人たちにとって見れば、ただの喧嘩だった。しかし、はたから見ればそう思われるのも仕方のないことである。違うと、自分はそんな偏見は持っていない。そんな気持ちが膨らんで、昨日のような事態を引き起こしてしまったのだ。勢いに負けて謝ったのである。
 さらに、彼女は最近気付いたとある感情にも、少しばかり押しつぶされそうにもなっていた。
――あいつと喧嘩したままだったら、こんなこと考えなかったのになぁ
 大きくため息をこぼしたとき、肩に何かが乗った。驚いて見てみると、そこにいるのは小さな鳥。ラジィですら先日の試合で初めて見た、ゲティーラッサである。朱色の体が、なんとも美しかった。鳥好きな彼女にとってはその存在自体に思わず癒される。が、今はそうではない。
「え?なんでここに?」
 キースは今働いており、召喚なんてできないはずだ、と当然の疑問を抱く。今まで考えていたことと疑問が混ざって、混乱する。するとゲティは覗き込んできた。それから首をくるくる動かして、甲高い声で鳴く。フクロウのように、首をせわしなく動かせるらしい。
『伝達伝達っ。三刻に中庭に集合!心のは魔禍に、魔女は達人に何かを買ってくるこーとー』
 綺麗だが、シエラとは違う声音でそういうと、ぱたぱたと元気に周囲を飛び回った。それから肩に戻って顔を覗いてくる。じっと見つめるその行為は、解ったかどうか知りたいようだ。唖然とした顔のまま答えられずにいると、もう一度口をひらいた。
『三刻に・・・』
「わかったって!中庭に集合でしょ!」
 ラジィが慌ててその声を止めると、今度はゲティーラッサが驚いて固まってしまった。
 くりくりとした金色の瞳をぱちくりさせると、満足したのか換気用の窓口から飛んで出て行った。それを視線だけで見送ると、ケーキを焼いていたオーブンに手をかけた。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷