エイユウの話 ~秋~
「大人だなぁとは思ってたけど、キサカって年上だったんだね」
大学と同じで、学年と年齢が必ずしも一致しないため、その表現は少し間違いがあった。どころか、入学の年齢基準ぎりぎりのキースと同い年の者の方が少ない。しかしその意を汲んだキサカは、首に手を当てて空を見た。
「あー・・・そうだな。逆に俺はお前が一年だってことに驚きだよ」
キサカの言う気持ちはわかる。
まさか今年入ってきた新参者が、卒業資格を取れないとはいえ長く学んだ二年や、それこそ取っていないだけの三年以降の術師を凌いで、最高術師の称号を持っている確率は結構低い。かく言うキサカも、今年初めて最高術師になった人間だ。
また流の導師との険悪ムードなんかも、入学して一、二ヶ月しか経っていないころに形成されたというのは、相当馬が合わなかったとしか言えない話になる。まあ、ラジィやイジメによるサボりという伏線はあったようだが。
ふと、キサカのシャウダーが鳴った。登場時に小型無線機という表現を使ったが、具体的に言えば電波の有無を問わない携帯電話だと思ってくれると早いかもしれない。具体的に言うなら、電波の代わりに微量の魔力を飛ばして通信するための道具なのだ。とはいえ、学内でしか使えない代物だが。
適当に対応していたキサカだったが、通話停止ボタンを押すと、すっと立ち上がった。
「悪ぃ。ちょっと野暮用ではずすわ」
「いいけど、帰ってからちゃんと働いてよ?」
「わぁってるって」
気の抜けた了解を返してから、キサカは中庭に向かって歩き出した。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷