エイユウの話 ~秋~
「そういえば、どうしてアウリーが僕で、ラジィがキサカなの?」
「ラジィからもらいたかったか?」
間髪入れずににやりと笑ったキサカに対し、キースも仕返しをする。今は彼だって無敵じゃない。
「・・・キサカこそ、アウリーからが良かったんじゃないの?」
「まだ保留中なんだから、蒸しかえすな」
キサカが眉をしかめたので、笑いながら謝った。元はといえば、彼が原因の言い合いだったはずだが。一度止まってしまった手をもう一度動かしながら、キサカは真面目に返してくれた。
「自分のことを好いてるやつに物あげるって、意外と酷じゃね?」
しかも、自分は別の人に好意を抱いているのに。そこまで考えて、キースは唸った。
「・・・確かに」
同時にとっさにその気遣いが出来るキサカに驚く。本当に、人付き合いが苦手だったとは思えない。乱暴なキサカはザルピッツの皮伸ばしに苦戦していた。すぐに破けてだめになってしまうのである。彼は穴の開いたザルビッツの皮を丸めたり伸ばしたりをくり返すという行為を堂々巡りする。
「来ると思うか?」
「昨日の謝罪は嘘じゃないよ」
その理由はともかくとして。そうキースが思ったことは、もちろんキサカは知る由も無かった。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷