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エイユウの話 ~秋~

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「演劇終わったらしいぞ!冷めたものは俺らの昼食にすっから、新しいのを作ってくれ」
 演劇で暇になることを見越した彼らの屋台は、広報担当の数人を劇場に派遣し、終わり次第連絡をくれるように仕込んでいたのだ。とはいえそれは名目上で、演劇が見たいといって聞かなかったやつらを、連絡を忘れるという怖い推測を消せないまま、伝達として投げ出したのだが。しかし彼らはきちんと目的を果たしてくれたらしい。
 キースはキサカの背中をパンと少し強めに叩くと、エプロンの紐を結び直した。
「さ、キサカ!混む前に始めるよ」
 キサカは何も言わずに彼の顔を見ると、大きくため息をついて立ち上がった。それからバンダナでくるまれた頭を、ガシガシとかき回す。それからフンとたくましく鼻を鳴らした。
「確かに、いつまでもうじうじしてたってしかたねぇもんな」
 立ち直ると早く、彼は提案した。
「今日の午後は久々に四人で集まるか?」
 実は昨日、また少し変動があった。

 ラジィが、彼女の模擬試合終了後にキースのところまで来たのだ。それだけでも驚きなのに、さらにポツリと口を開いた。
「ごめん」
「へ?」
 はじめは聞き間違いかと思った。確かにラジィのほうが分が悪かったにせよ、彼女が謝るなんて、キサカに挑発されて出任せに言ったあの時以外になかったからだ。驚きのあまりぽかんとしたが、またキサカが仕組んだのかとぱっと横を見る。けれども、彼もまた先ほどまでの苛立ちなど吹っ飛んだかのようにラジィを見ていた。彼女は本気で、自分の意思で謝っているらしい。
「・・・もう時効?」
 ラジィが少し不安そうに覗きこんできた。何処の世界でも男は上目遣いというのに弱い。しかも好きな子にやられては、むげに出来る者は少ないはずだ。キースは軽いパニック状態で、しかしきっちりと答えた。
「こっちこそ、ごめん!」
 謝り返されたラジィは、ほっと安堵の息をつく。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷