エイユウの話 ~秋~
それが望んだ結末なのか?・1
秋祭りも二日目になった。
先日の模擬戦闘と並ぶメインイベント、卒業資格所持者による演劇が行われているせいで、せっかくの屋台街は閑散としていた。
売れないために動かない調理室で、キサカはふてくされていた。
「・・・機嫌悪いね」
「まぁな」
オーブンの前で座り込んで、暇を持て余した友の言葉に関心なく返す。気の抜けたキサカに返事を期待するのを止め、キースも同じようにオーブンの中を覗き込んだ。
今日の仕事は作り手。その中でも前半は焼き係、後半は包み係が当てられていた。予想通り客も少ないので、人数が不足しているにも関わらず、今焼いている分でもう終わりだ。これ以上作ったら無駄になってしまうだろう。売り場のものもほとんど冷めてしまい、自分たちの昼ごはん確定になっていた。
しゃがみ込んでオーブンをじっと覗き込む。じわじわと色のついていくザルピッツを見ながら、キースはふとキサカに尋ねた。
「昨日のアレ、まだ引きずってるの?」
「引きずってない」
口では何とでも言えるが、正直者の彼はすぐに顔に出る。キサカは焼きあがったザルピッツを取り出すと、一つのザルピッツを取って何度も何度も串をさした。本来は焼き具合の確認なのだが、彼のそれはなんでもない。
昨日、キースが二人に追いついた時にはすでにジャックの姿はなく、いらだちが最高潮に達したキサカときょろきょろと周囲を見回すアウリーだけだった。
「どうしたの?」とキースが聞いても、
「どうもしねぇよ」とキサカは眉間にしわを寄せた。
恋愛感情にそこそこ聡いキースは明らかに変わったキサカの態度で、ある程度の推測はついた。キサカの不機嫌の原因、それは多分、ジャックもアウリーのことが好きだということだ。アウリーだって、恋愛に興味が無いという前提のない人物からの好意なら、ある程度の推測はつくだろう。彼女はきっとそれに戸惑っているのだ。キサカがつまらないと思うのは、きっと彼女を困らせている事態と、彼女を「アウレリア」として好む人間が現れた二点だ。
が、それはあくまでも推測のため、キースは誰にも言っていない。
キサカの意外な子供っぽさが、つい可笑しくなった。いつも彼のほうが大人びていると思っていたのに、今では誰が見てもキースのほうが年上に見えるだろう。
そんな中、売り場担当の奏の術師が顔を出した。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷