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エイユウの話 ~秋~

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「姫が盗られたな、騎士君たち」
「うるせぇ!」
 せめて笑いながら言ってくれれば、そこまで怒らなかっただろうに。キサカは近くにあった椅子を乱暴に蹴飛ばすと、ジャックの向かった方向に早足で歩み始めた。
 キースはすぐに追おうとしたが、何かを思い出すと手持ちのショルダーバッグから、何かをノーマンに投げつけた。彼が物を投げるのは珍しく、ノーマンとあまり深く関わりたくないという気持ちの強さが現れている。さらにつっけんどんな言葉をおまけした。
「それ、もう読みましたから」
 読書が苦手なはずのキースだが、嫌いなものを目の届くところにずっと置いておくのもまた嫌だった。そのため、二週間のうちにさっと本を読みきり、ずっと鞄の中に入れて返す機会を窺っていたのだ。とはいえ、入れて二日で会えたあたりはラッキーだったと言えよう。目処をつけていたのは確かなので、まったくの偶然ではないが。
 人混みの中で聞こえない可能性も否めないが、今回はそんなのを気にしなかった。本が彼の手に渡ったのを確認すると、背を向けてさっさと行こうとする。が、呼び止められて足を止める。ノーマンは本を掲げながら、近くまで歩いてきた。それは、長く話す気があるということを表す。残念ながら、キースの気持ちは伝わらなかったようだ。
「どうだったよ?」
「どうって・・・普通でした」
「普通ってどういう普通?」
 面倒臭い人だなと思いながらも、その存在を無碍(むげ)には出来ず、もう一度体の向きを変えた。それから掲げられた本を一瞥して、冷めた目で嫌悪をこめて告げる。
「悲愴思想を具現化したような小説でした」
 ごった返す人混みの中では、聞こえないくらいの声だった。それでも目的地にはきちんと届き、困って長い髪に手を突っ込んでうなじを掻いた。
「悲愴思想ね。間違っちゃいないが、やっぱり成人してからじゃないと難しかったか」
 少し残念そうにも、ガキだと馬鹿にされているようにも思える発言に、キースはカチンと来る。ノーマンと比べれば、年齢以外の様々なところで幼い自覚はある。それでも看過はできないのだ。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷