エイユウの話 ~秋~
「で?なんでそんな考えに?」
「最近キサカの機嫌がいいでしょ?それってアウリーと二人で会えるからかなぁと思って」
機嫌がいいという自覚すらなかった。それどころか。
「・・・会ってた事はバレてたのか」
「彼女は有名人だからね。キサカかどうかはともかく、君がいなくなったあとに何度か『アウリーが男子生徒と二人で会ってる』っていう目撃情報を得たもんだから」
思わぬところから洩れたもんだと反省した。自分たちにとってはただの女友達だろうと、他の人たちから見れば、彼女は在籍するただ一人の導師の娘だ。注目するのも当然だろう。下手な噂になったことを、後で謝らなければと嘆息した。
回答をせかす様子はないので、キサカはじっくりと考えてみる。が、他者とは違う好意とは何なのか、恋愛感情の何たるかが全く解らない者に、解読できるものではなかった。
真面目に考えた上で尋ね返した。
「もうちょっと待ってもらっていいか?」
もっと簡単な答えを待っていたのか、キースはきょとんと抜けた顔をする。しかしにこりと笑って応じてくれた。
「いいよ、本当のことを言ってもらえるならね」
「信用ねぇな」
「キサカの口にはかなわないから」
念押しに苦笑いしたキサカに、楽しそうにそう返した。もちろん今のは嫌味ではなく、純粋な本心である。言ってみれば褒め言葉に近い。
ふとキースは思い出す。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷