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エイユウの話 ~秋~

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「お前、地味ぃに俺の悪戯にキレてる?」
「まさか。そのとおりだと共感しただけだよ」
 慣れていない、飄々とした顔で返された。自分も大概に嘘が下手だとは思うが、彼もまた同じくらいには下手だろう。そう感じたキサカはハハハと笑ってから、視線をそらした。温厚な人が怒ると怖いとは言うが、その通りだと同意する。
 大怪我はしなかったものの、体力の消耗のし過ぎで二人そろって、闘技場の控え室のベンチで休む。キースがもってきてくれた温かい紅茶を飲みつつ、キサカはびしょびしょに濡れた制服を脱いで絞った。不意にキースが話し始める。
「そういえば、賭けって適用されるのかな?」
 ずるをしたわけではないのだが、真面目な彼には納得しがたい勝ち方だったようだ。気持ちとしては無しと言いたいところなのだが、
「勝ったには勝ったんだから適用だな」と、賭けの適用を認めたあと、
「俺が同じ勝ち方してたら、賭けは適用にしたからな」と笑って見せた。
 キースが勝ったときの口約は、「何でも一つ、キースの質問に正直に答えること」だ。どうせそんなに厳しい質問は来ないだろうと、キースがキサカに持ったのと同じ感想を抱いていた。のんきに紅茶を飲み始めた後に、容赦ない質問がぶつけられる。
「キサカって、アウリーのことが好きなの?」
 途端キサカは紅茶を勢いよく吹き出した。激しくむせてから、首からかけていた汗拭き用タオルで、汚れた口元を拭く。しばらく絶句して見ていたキースだが、我に返ると慌てて尋ねた。
「大丈夫?」
「だ、だいじょうぶ・・・」
 それでもなおげほげほとむせる背を、ゆっくりとさすってやった。するとすぐに、心配無用とのジェスチャーが送られる。
 礼を告げた彼は、「あー・・・」と無駄に長い発声をしたあと、軽く咳払いをしてから話を切り出した。すぐ話を続けるには、心に覚悟がなかったのだ。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷