エイユウの話 ~秋~
「クール、波紋壁(シールド)!ゲティ、一等鎌鼬(ブラインド)」
「な・・・!」
緑の術師側には、召喚獣は一体しか召喚してはいけないというルールはない。しかしそれは、ルールにすべき以前の話で、二体同時召喚などめったな人以外は出来る代物でないからだ。
油断していたキサカは猛風に当てられ、結界に背中を叩きつけると、完全に摂取しきれなかったクルガルの水を思いきり被った。半分は接収できていたため、ダメージは何とか抑えることは出来たが、風のダメージと合わさっていたので戦闘不能と判断させるには充分だった。
一瞬にして勝者が決まった最高術師同士の戦いに、会場はついあぜんとした。それは司会者も同じで、随分経ってから彼女は我に返る。
「しょ、勝者、魔禍の喚使!なんということでしょう、彼は一年生でありながら、二体同時召喚を成功させました!」
ワーワーと盛り上がる会場を見ながら、キサカはずぶぬれの頭をぶんぶん振って水気を飛ばした。ワイルドなことをしたせいか、結界にたたきつけられたせいかわからないが、頭がくらくらしている。キースのほうを見た。
その隣にはいつもの黒い痩躯の豹がいて、頭上にはあんな力があるとは思えないほどの小さな鳥が飛んでいた。彼は二匹にお礼を言ってから木鏡に戻す。
彼がわざわざ手を貸しにきたので、その呆れた親切さと驚異的な実力に失笑した。
「二体召喚とか・・・反則だろ、それは」
意地を張って自力で立ち上がったが、彼は怒らずにっこりと可愛らしく笑う。が、口から出た言葉は、ちくりと刺さるものだった。
「禁止事項になければいいんでしょう?」
承諾なしにカフェテリアに連れて行ったとき、注意してきたキースにキサカが言った言葉である。自分の言葉をこんな形でオウム返しされるとは、さすがの彼も思っていなかった。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷