エイユウの話 ~秋~
「・・・そろそろ、決着つけるか」
「いいね、そうしようか」
キサカはもう最後の火筒の水を、クルガルの魔法から接収した水に追加した。先ほどの水は全部消滅したわけではないのだ。現状で言えば、キサカのほうがぐっと有利である。狙われているキース自身が魔法を使えないというのがその原因だ。が、珍しくキースが弱気な様子をちらりとも見せていない。キサカはそれだけがかなり引っかかっていた。
――キースのやつ、何を企んでやがる?
もうそう考えるしかなかった。クルガルの猛攻をよけながら、キースの動きへの注目を欠かさない。
すると、キースは木鏡を手に持った。木鏡は首から下げるものなので、手ぶらでも平気なのだ。まさかここでクルガルをしまうのではないだろうかと、ありえない事態をつい考える。そんな彼をよそに、キースは木鏡を持ったまま叫んだ。
「クール、河伯蜂起(スプラッシュ)!」
キースの命令と共に、クルガルの口の前に波紋が広がった。そして彼女が吼えたと同時に、そこから大量の水が流れ出す。キサカがそれを接収しようと、手を前に伸ばした。そしてもう一方の手ですでに接収した水を、キースに向かって放つ。
そのとき、観客の歓声が明らかに変わった。白熱した試合に興奮していた声が、いきなり感嘆になったのだ。
特別なことをしていないので、キースが何かをしたことがわかる。が、クルガルの新技なら、また接収すればいいと楽観視した。そんな彼に、キースから信じられない答えが出される。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷