エイユウの話 ~秋~
闘技場に上がった彼を待ち受けていたのは、こういうときでないとかけられない歓声だった。もちろん最高術師が金糸であったということに驚く者もいたが、こういう場面では結構実力主義な考えになる者のほうが多いらしい。本当に、文化祭サマサマだ。
闘技場の上から出場者待機室を見る。茶色い髪色はあまりにも多すぎて、目的の人物がどれなのかを知る事はできない。あきらめて視線を相手側の登場口に目を向けようと、キースが首を動かしたとき、視界に綺麗な金色が移った。
思わず動きを止めると、そこにいたのは今の立場で言えば憎い相手、ノーマン・ネージストだった。ひらひらと無表情で手を振ってきたが、振り返す義理もない。ただ怨めしげにその様子を見るだけだ。
その様子を、彼の隣の席の少女がじっと見ていた。橙色の髪が特徴的な、アウリーだ。ノーマンを怨めしそうに見るキースに、ひっそりと心をときめかせていた。流の導師との直接対決をあまり見ていない彼女にとって、結構貴重な表情だったためである。キースが自分に気付いてくれた気がして、見えるか見えないかのところで手を振ってみる。するとキースも応えるように温和な表情で軽く手を振り返してくれた。
――なんか、これって恋人っぽくないですか?
独りよがりとも思える感想だが、恋する少女にとっては実に素直な感覚だった。友人同士が戦うことになったという不安は、もう一気に吹き飛んでいる。
「ずいぶんと余裕だな」
柔らかな顔で手を振り返していたキースに、キサカから声がかかった。何故かちょっと不機嫌である。そんな彼の機嫌をよそに、一気に歓声が高まった。キースは苦笑いをしながら、しかし彼にしては強気な発言をしてみせる。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷