エイユウの話 ~秋~
わざと負けるなんて、あのキサカが気付かないわけないか。
相手を甘く見ていたことと、ズルをしてまで勝つことを望んでいない相手だということの二点を改めて認識する。そして、わざと負けるなんて失礼なことをしてはいけない相手だと感じたのだ。
控え室に着くと、卒業資格を持った緑の術師が待機していた。普段は導師がしている点検だが、秋祭りの期間は、導師は一切手を出さないというのが伝統になっている。そのため、担当者が検査することになっていた。もしかしたらノーマンじゃないかと心配していたキースは、つい安堵する。
持ち物検査をしながら、おもむろに先輩が話しかけてきた。
「あのノーマンだって半年かかったのに、春から最高術師だなんてすごいね」
顔を見えないものの、素直な感想に驚かされた。
「あ、ありがとうございます」
金髪迫害思想がまだはびこっている学内で、卒業資格所持者とはいえ、同専攻の術師から話しかけられる日が来るとは思わなかった。まあ、同じ金髪のノーマンは別区画だが。
しどろもどろに答えたところから、悟ってくれたのだろう。彼は柔らかい笑顔で教えてくれた。
「ああ、俺らの学年は、金髪迫害思想なんて持っている奴なんて少ないよ。ノーマンと深く関わっていて、そんな思想持つ奴がいたら、知りたいくらいさ」
初めて会ったときに、キサカが金髪であるキースを受け入れられたのも、それが原因なのだろうか?と、彼は悩む。点検を終えた先輩に背中を軽く押されて、慌ててキースは闘技場への階段を上り出した。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷