エイユウの話 ~秋~
「お前が今の緑の最高術師か。魔禍の喚使(まか・の・かんし)だっけ?本当に綺麗な金色なんだなぁ」
「先輩も同じです」と言う言葉を、殴られる恐怖に駆られ、喉のところで必死に飲み込んだ。うっかり出れば鉄槌物である。かわりにある疑問をぶつけた。
「あの、先輩は・・・?」
「ああ、俺の噂はもう消えたかぁ」
がっかりと言うよりは、まるでゆるやかな川のように、さらりと流した。無表情過ぎて解らないが、別にショックなことではないらしい。復活したキサカが、それでも頭を擦りながら代わりに応じる。
「消えてませんよ。そいつがそういうことに無関心なだけです」
「なるほどな。俺みたいなやつだ」
「冗談。そんなに暴君じゃ・・・」
言いかけたところで顔面にパンチが飛んだ。クッション性の欠けた芝生を転がっていく。先輩はいつの間にか体を伸ばして、すらりと立ち上がっていた。気付けば方向転換までしている。運動神経が人並み以上だ。殴った手をパンパンとはたく。意外といい人だと思い直していたキースは、思わず認識を元の戻した。くるりと華麗に回れ右をして、再び向き直る。
「俺はノーマンだ。ノーマン・ネージスト。緑の金糸雀(みどり・の・カナリア)って聞いたら解んね?」
「・・・申し訳ありません」
「んじゃ非人の緑者(ひにん・の・りょくじゃ)ってのは?」
その名には思い当たるものがあった。それもそのはず、彼の前の緑の最高術師と謳われた男だ。確かに著名で、関心がなくとも耳に届くほどである。ただ、髪色は金ではなく茶色だったのと、顔までわからなかったという点で、反応は遅れた。それにしても、連続で最高術師が金糸(きんし)だと、誰が予想できただろうか?
解りやすい反応に、非人の緑者は満足げに頷いた。それは哲学者のような頷き方で、暴力的な人だなんて誰も思わないだろう。呆然とするキースに対し、戻ってきたキサカはあきれた様子を前面に見せた。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷