エイユウの話 ~秋~
「うるさいですよ、センパイ」
そう乱雑に返すと、彼のつむじに勢いよくこぶしが降った。座っているときにしか見えない、絶好の急所である。頭を抱えるキサカに対し、その人の表情はピクリとも変わらない。
「敬意が浮いてるぞ、コウハイ君」
「だからって殴ることねぇだろが」
「敬意が無い」
反論したキサカに、再度こぶしが振るわれた。頭を抑えてもんどりうち、珍しく反論する余裕もない。彼をも黙らせる暴力的な先輩に、キースは少し怯えた。そんな彼のほうに、先輩の視線が移る。まさに「蛇『と』睨まれた蛙」といった様子である。
座りこんで作業をしていた彼に視線を合わせるように、先輩はしゃがみこむ。青い瞳に怯えた様子の自分が映っているのが見えた。その近さで、長い間観察される。不意に相手の腕が動いた。何もしていないのに殴られるのかと目をつむる。しかし、軽くポンポンと頭を叩かれただけだった。叩かれた、というより、「いい子いい子」に近い感じだ。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷