エイユウの話 ~秋~
『魔禍の喚使キートワース・ケルティア 対 明の達人キサカ・ヌアンサ』
キース以外の望みが届いた結果の試合が、こうなって出るとは誰も予想していなかった。
呆然とする当事者たちをよそに、外では大いに盛り上がっていた。当然である。観客にとってもスカウトマンにとっても、これ以上ない魅力的な試合なのだから。司会をしていた去年の地の最高術師が叫ぶ。
「凄いですよ!なんと次は現最高術師二名の対戦となりました!」
彼女が叫び終えたと同時に、会場からはまた大きな歓声が沸いた。
その歓声に二人は我に返り、思わずお互いの顔を見合わせる。気付いていないようだが、周りにいる全ての参加者が二人を見ていた。友達同士というのは、周知のことでもあるのだ。ふいにキサカが笑う。
「面白ぇ!やろうぜ、キース」
「やろう」も何も、もとよりこの試合で相手による棄権は、例に挙げた最悪の事態でも起きない限りできない。いや、もしその一年生がキースであれば、きっと最悪の事態でも出来なかっただろう。
キースは好戦的なキサカに腕を引っ張られ、控え室に向かう。ちなみに今までいたのは待機室という、秋祭りの期間だけ闘技場に設けられる特別施設だ。そういうとなにやら聞こえがよく感じるが、要は屋根と柵だけで出来た囲いの中である。初めてこの施設を見たとき、キサカは思わず「家畜かよ」と不満を漏らしたくらいの雑なつくりだ。
また、動き出すのが遅いだろうと思った方のために、一つ加えておこう。模擬戦闘は学生だけで行う催しなので、授業時よりも後片付けに時間を使う。そのため後片付けを行っている間に、控え室に移動するという時間でも、充分間に合うのだ。
途中、唐突にキサカが口を開いた。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷