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エイユウの話 ~秋~

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 一方の控え室。先ほど試合を繰り広げていた地の術師と奏の術師が、闘技場から戻ってきた。今回の試合で勝った奏の術師は、仲がいいのだろう仲間とハイタッチをする。地の術師は大怪我はなくとも怪我だらけなので、救護室に足を向けていた。
 そんな光景を見ながら、無理やり参加させられた明と緑の最高術師二名と緑の次高術師は、次の試合の出場者が出るモニターを、穴が開くほどに見つめていた。そこで思うことは三者三様である。
 キースは極力最後のほうで戦うことを望んでいた。観客の熱が冷めたころなら、いくら最高術師の試合といえど、その人数は減ってくれる。残っているのは、仕事で来ているスカウトマンと、数人の気の長い観客くらいだろう。また、相手が一介の術師ならもう望むことはない。観客は勝手に最高術師の勝利を想定し、スカウトマンとしても格差のある対決を意義のある試合としてみる人はあまりいないためだ。「金髪の最高術師」が負けたときの暴言暴動はかなり激しいが、今日に限ってはわざと負けてもいいくらいの気持ちだった。
 キサカが望んでいることはアウリーと同じく、キースとラジィの戦いだけは絶対に避けたいというものだ。もし起こってしまった場合、感情が前倒しになってどんな惨状を招くか解ったものではない。ラジィ相手に本気を出せないキースが負けるだろうが、手を抜かれたとやはりラジィは怒り狂うだろう。二人の関係が悪化することが、容易に想像できるのだ。そうなれば、なおさら簡単に仲直りも出来ず、この気まずい状況がずるずると長引いてしまう。それだけは勘弁して欲しかった。もちろん無視するという選択肢もあるが、アウリーが諦めるとは思えない。彼女一人にこんな困難を投げ渡すのはもっと気がひけた。
 ラジィの望みはただ単純に、隣に並ぶ二人と戦うことだけは避けたいという願いだった。仲がいい事を差し引いても、最高術師と戦っては、次高術師であろうと、ひどく弱くなってしまうためだ。普通の法師になることを目指す者として、公然で負けるなんて起きてはいけない不測の事態なのである。もちろん単に負けず嫌いだということもある。他の術師でも専攻が違えば勝てる可能性は低くはなるけれども、大差がつかなければ支障はないというのが、彼女の見解だった。
 秋祭りの模擬戦闘は、機械によるランダムな選別で対戦相手が決定する。しかも学生全員の参加が可能なので、卒業資格所持者対一年生という最悪の事態が起こることもある。また、どこの専攻か相手になるのかわからないため、対策も不十分になりがちだ。だからか怪我が起こりやすく、流の術師がてんてこまいすることも多い。実際、開始から二十試合近く行われただけで、救護室はぎゅうぎゅうだった。残りの試合はどうするのだろうかと、控え選手に不安を与えていた。
 モニターの対戦者欄が起動し始める。めまぐるしく名前が入れ替わる中、ピタリと二つの名前に絞られた。それを見て、三人、いや、会場中が息を呑んだ。次の対戦者の名前は。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷