エイユウの話 ~秋~
礼儀上メニューを運んできたラジィだが、注文を受ける気は無かった。しかし、キサカはそんなこと気にも留めない。
「紅茶、一杯。キースは?」
「あ、じゃあ、僕も」
おじおじとキースも注文する。二人をじろりとにらむと、踵を返して紅茶を取りに戻っていった。
戻ってくるのがいやに早かった。それもそのはず。持ってきたのは入れたてではないもう冷め切ってしまっている紅茶だ。間違いなく普通のお客には出せず、捨てる寸前のものである。不満を隠さず、キサカが目で抗議をした。だが、全く意見を受け付ける気は無いらしい。無視を続けて、ずっと文句を言い続けている。お盆で肩を叩きながら、桃色のエプロンの腰に手を当てた。可愛いウェイトレスの恰好が台無しだ。
「もう何も言わないから、さっさと帰りなさいよ」
「ここまで叫びまくって枯渇状態なんだ、ケチ言うな」
「ケチじゃないわよ、そうじゃなくて・・・」
そこまで言いかけたところでポーンと放送が入る。
『午後の試合に参加する選手の方は、緑の闘技場までおこしください』
再びポーンと鳴って放送が終了する。ラジィは近くにあるスピーカーを指差して、「ほら」と言った。言いたかったのはこのことらしい。二人の顔が思わず歪む。
「二人とも必出でしょ?」
「・・・ほんとに余計なことしてくれるよな、あのセンパイ。わざわざシード権とか」
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷