エイユウの話 ~秋~
「な?大成功だろ?」
自信に溢れた顔で屈託なく笑うキサカを見ると、怒るに怒れなくなってしまった。校則に縛られない彼は自由で、その発想力は誰しもを超えていた。が、それと校則違反は別問題である。
試食がなくなり身軽になってから、入り口を確認しつつ忠告する。
「成功は成功かもしれないけど、このままじゃ導師様が来ちゃうよ」
返ってきたのは生返事で、反省する色は見えなかった。それどころか、近くの空席にどっかりと座り込んだのだ。ごった返す食堂内では、椅子に座ったほうが周りにも迷惑にならないというのはあるが、そこまで考えているのかわからない。優雅に足を組んでふんぞり返った彼は、キースにも座るようにいってから開き直る。
「導師が来たら謝りゃいいだろ」
「いつも謝らない奴が何言ってんのよ」
休憩モードに入ろうとする二人のテーブルに、ラジィが勢いよくメニューを置いた。大きな音が鳴ったが、しかしにぎやかさに紛れてそれほど響かずに済んだ。とはいえ、近くにいる二人にはそれなりに耳を突く。キースは吃驚して肩を動かしたが、キサカはそれでも飄々と笑った。
「逃げられるなら逃げるべきだろ」
普通は逃げないで素直に謝るものだと思うが。緑の術師二人はそう至ったが、訂正は早々とあきらめた。きっと彼は何かにつけて謝らないに違いない。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷