エイユウの話 ~秋~
「さ、広報始めんぞ」
「広報?ちょっとまって、ここでするの?」
その制止を聞きもせずに、キサカはメガホンを片手に叫び始めた。
『明の闘技場付近の屋台でザルピッツ売ってまーす!』
もの凄い注目が彼らに集まる。視線の源にはラジィやアウリーも含まれていた。
先ほど校舎の周りに屋台が並んでいるといったが、実際はそこだけではない。この学校は六角形の校舎を中心に道があり、そこから六方向に出た道が各闘技場へとつながっていた。ちなみに道と道の各間と校舎の真ん中がいわゆる中庭であり、彼らがよく集まっているのは校舎の真ん中の中庭である。そしてそれらの道に沿って屋台が並んでいるのだ。
そんな説明はともかくとして、真面目なキースは顔を青くした。まあ、真面目でなくとも普通は当然だが。慌てて画板のようなお盆から手を離し、メガホンをふんだくった。
「まずいって!」
「なんだよ、カフェテリアで広報禁止なんてないだろ?」
それは規定する以前の問題だからなのだが。
しかし違反とはいえ、キサカの考えは的中した。ザルピッツはクッキーやパイのような皮に、とにかく何でもいいから包む、という料理だ。その中身はかなり自由で、キースとアウリーが「饅頭みたいなもの」という印象を持っている原因はそこにある。試食用のザルピッツは売っているものより一回り小さなサイズで、肝心の中身はチョコレートか野菜炒めの二種類が用意されていた。それが、カフェテリアで扱っているコーヒーや紅茶、緑茶などに非常によく合ってしまうのである。
おかげでカフェテリアは今まで以上に繁盛し、持っていたザルピッツはあっという間に姿を消していた。
販売からの連絡によると、店での売り上げにもかなり貢献したらしく、予約体制にまでなったという。まさに戦略勝ちといったところだ。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷