エイユウの話 ~秋~
ラジィが失恋したあの日からも、約一ヶ月が経つ。その間、キースとラジィが顔を合わせることは無かった。なんとなくどちらも一人にさせられなくて、結果男女に分かれてしまっているという、最悪の状態だ。とはいえ少なくともキサカはこのままでいいとは思っていない。しかし改善する術が見い出せないため、ずるずると続いてしまっているのである。
恋愛感情とかそういう以前に友人の理解に苦しんでいると、後方から声がかかった。
「おお、今年は出てんのか」
同時に振り返る。そこには一人の男子生徒が仁王立ちしていた。女性的な面立ちをしているが、程よいたくましさがあって、おかげで男装してる女性にも見える。卒業資格取得者である証明となる腕章に気付き、先輩にあたる人だと解った。空色の瞳が淡々とキサカを見据えているので、彼に話しかけたのだと判断する。
しかしキースは、もっと驚くことがあった。
一つはその人が太陽色の長い髪を隠すことなく風になびかせていたことだ。綺麗は綺麗だが、そんな惜しげもなくさらせるものではないのは世界常識である。目に見える勇敢さ、と言えるものだ。
もう一つはその言動だ。
この学園での先輩後輩関係は軽薄である。基本的に能力重視のこの学園は、三年生から取れる卒業資格だけが上下関係を形作っていた。ゆえに誰が何年いるのかなんて、知るよしもない。
だがしかし長年いる先輩を少しも気にしないほどに、図太い後輩はやっぱり少ない。決まりはないが注意を払うのが定石であり、暗黙の了解ともいえる。
そして彼は「今年は」と言ったのである。つまり、キサカが去年もいたということに他ならなかった。在籍数で言うところの先輩だということだ。
驚いたキースをよそに、話しかけられた当人は嫌がった目を向ける。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷