エイユウの話 ~秋~
アウリーが可哀想な目にあっていた更に一時間後。キサカとキースは偶然待機室で居合わせた。ばらばらに行動していたので、お互い何度か戻っていたのだが、朝からまったく会っていなかったのである。
キースは新しい試食が出来るのを待っているところだった。キサカがタオルを取りに待機室に来たのである。汗だくになっている彼に珍しさを覚えながら、思わず話しかけた。
「やあ、キサカ、精が出るね」
「味見もかなり無くなってるみたいじゃねぇの」
お盆をさしてキースの接客能力を評価する彼に対し、苦笑いで返す。
「味見だけの人もいるけどね」
「結果も見えずただ叫ぶだけの広報係よりいいだろ」
言うわりにあまり疲れていなさそうに見えるキサカが、さも疲れているかのようにメガホンを肩にかけた。外で広報していたわりには喉も枯れてないし、他の広報に比べ発汗が少ない。きっと何処かでサボっていたのだろう。確認できる程度の汗は、人ごみを掻き分けていれば防げない量だ。
彼はロッカーからタオルを取り出して汗を拭いた。ついでに水筒から水分を取る。それから心なしか楽しそうに見えるキースを見た。
「これからまた出るのか?」
「午前中の分の味見は配り終えないと」
実際は繰り下げれば解決するのだが、その真面目さからノルマ達成を目指しているようだ。他の人たちは昼食費のために奮闘しているというのに。
そこでキサカの頭に悪戯心が沸く。
「俺も人の多いところに行くところなんだ。一緒に行こうぜ」
「人の多いところって、基本的に学内全体が多いけど・・・?」
「他とは比べ物になんねぇ量だって」
戸惑うキースの盆に出てきたばかりの試食を山々と積むと、有無を言わせず待機室を出た。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷