エイユウの話 ~秋~
「あの茶髪の子?」
「はい、そうです」
すぐにうなずいた。彼はラジィをじっと見つめてから、視線をそらす。なにを思ったのか、今度はちらりとアウリーを見た。不思議な間をおいて、メニューを持って返してくる。
「ありがとう。コーヒーを飲みに来たんだけど、無理みたいだ」
メニューを受け取るやいなや席を立ち、人ごみを掻き分けて器用に外へ出て行った。わけも解らないまま取り残されて、状況もつかめずにぽかんと立ち尽くす。すると入れ違いに綺麗な赤い髪の男が来た。たぶん昨年度の奏(そう)の最高術師だ。外見が印象的なため、情報さえあれば一目でわかる。
絶え絶えな息を無理に整えながら、努めて平静に尋ねてきた。
「ノ、ノーマンを・・・見なかったか?」
ノーマンという名前はピンとは来なかったが、先代の緑の最高術師との関係をキサカから聞いていたので、察しはついた。さっきの人を探しに来たに違いない。出口を指差しながら答えた。
「金糸雀(カナリア)様なら先程出ていかれましたよ」
「出て行った?」
拍子抜けした顔で、奏の彼は固まった。なぜ固まったのか解らずに、そのままい入れ違った原因と思った言葉を告げる。
「コーヒーが飲めなくなった、と」
「逃げたのかっ!」
唐突な大声に呆気に取られているうちに、謝りもせずにギーランティは踵を返して姿を消した。我に返ってふと周りを見ると、あの大声によってかなりの注目を集めているのに気付く。
「ご、ご迷惑おかけしました!」
実際アウリーは何も迷惑をかけていないのだが、状況にのまれ思わず謝ってしまった。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷