エイユウの話 ~秋~
―――皆、朝ごはん食べないで来るのかな?
カフェテリアでウェイトレスとしててんてこ舞いになっているアウレリア・ラウジストンは、なんとなくそう思った。
時は先ほどから一時間経過する。屋台とカフェテリアは開催と同時に開くが、食堂は開催後一時間半してから開く。そのため、屋台で買ったものを片手にカフェテリアに来たり、普通に食事に来たりする人が後を立たないのだ。
「アウリー、何してんの!三番と十二番が呼んでるよ」
「あ、ごめん」
白いメニューを片手に、十二番テーブルに向かった。深紅の卓上にメニューを置いて、その場で待機する。いちいち戻ると余計こんがらがるからと、みんなで決めたやり方だ。
とはいえこの混雑した状況は、一箇所に立ち尽くすのすら困難だった。真っ白な天井は下であふれる音を反響させ、ピンクベージュのマットを敷いた床は少しも見えない。人がひしめく振動で、吊り下げ式の電球が揺れている錯覚さえ覚える。
不意に、客の男が話しかけてきた。
「あれ?もしかして、心(しん)の導師の娘さん?」
「え、あ、そうですけど」
ちなみに「心の導師」という言い方は一般用語で、逆に言えば誰もが心の導師の存在を知っていることを示していた。秋祭りの中で一番恐れていたのは、今まさに起きたこの状況だ。が、話題はすぐに逸れてくれた。
「君さ、確かキサカと仲良いよね?」
「へ?あ、はい、まあ・・・」
唐突にプライベートを言い当てられ、驚いて出た返事はかなり曖昧だった。しかも「明の達人(みん・の・たつじん)」ではなく、キサカと呼んだのだ。顔見知りなのだろうかと不信感も同時に募る。あの返答を肯定と取ったらしく、話を続けてきた。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷