エイユウの話 ~秋~
「確かサートンのときも、同じこと言ってたよね?」
「あの時とは状況が違ぇだろ!」
すっとぼけるので、思わず手をとめて立ち上がった。馬鹿じゃないと知っていれば、どんな馬鹿だって解る嘘だったからだ。むしろ馬鹿にされている錯覚も起こさせる。鋭い眼光を受けてもなお、キースは手も止めなかった。
「自分を嫌う相手に、敢えて近づく気は無いだけだよ」
「好きな相手でもか?」
「言ったでしょ?彼女の失恋は僕の失恋。彼女はもう僕の好きな彼女じゃないんだ」
クールなのか、建前なのか。その真実を見抜くのは不可能だが、少なくともキサカは本心でないと思った。長い瞬きをすると、秋晴れの空を見てから再びしゃがみこんだ。
「嘘付け。大体お前は友人でもほっとけないタイプだろ?」
的を射た意見に、特に何を返すでもなく、気まずそうに視線をそらした。そのまま何を言っても口を開かず、黙々と作業に取り掛かる。こうなるだろうと想像できた上で話題を振ったので、キサカが怒りを覚えることも無かった。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷