エイユウの話 ~秋~
「頑固だよなぁ、二人とも」
「頑固じゃないわ、譲れないだけよ」
人はそれを頑固という。辻褄の合わない返しに、キサカは嘆息した。このままでは結局この異色のペアで一時間近くいなければならなくなるだろう。それを考えると頭が痛くなる。しかも、こんな機嫌の悪い人とは、十分いる今で限界だ。
思わず楽しげに話す二人に羨望の眼差しを向けた。キースは久々に会えた喜びからか、テンションが少し高いように見える。そしてアウリーは。
彼女は、心から楽しそうに話していた。彼と相談したときには、絶対に見せない笑顔だった。
キサカはなんとも言えずに、ガリガリと頭を掻く。なんだか妙につまらない気がした。会話に関しては、キースに勝らずとも劣らずの内容は話せるはずなのだが、と。
彼が動いたことで、キースを睨んでいたラジィの視線が移動する。まだがりがりと長く頭を掻いていて、ずいぶんと似合わない表情をしていた。
――こいつでもこんなに動揺する時ってあるのね
ラジィは素直にそう驚いた。表情はともかく、彼の頭を掻く癖は、大抵困ったときや自棄になったときなど、動揺ないしは精神的に何かが吹っ切れたときに出る。今の状況から何かが吹っ切れることは無く、動揺しているととらえるのが適切だ。
見られていることに気付いたキサカは、大きく息を吐いて問いかけてきた。
「とりあえず、行くか」
「そうね。一時間立ちっぱなしも嫌だし」
これ以上意地を張っている意味はないしと、思いのほか簡単に折れたので、今度はキサカが少し驚く。意見が一致したところで、先着組の座るベンチに向かって進みだした。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷