エイユウの話 ~秋~
気まずい雰囲気のまま、二人が地の闘技場に到着する。闘技場には中庭に飾られていたのと同じ旗がはためいており、秋祭りがもうすぐそこまで迫ってきているのが感じられた。キースが来たときとは違い、多くの学生で溢れかえっている。がやがやと騒ぐ彼らの中から、人を探し出すのは大変そうだ。
とはいえこれもまた一部だけであり、大体が作業中の団体から派遣されてきた人々だ。彼らは聞いた情報を間違うことなくサボって作業を続ける者達に伝える役割があり、メモを片手に妙に熱が入っていた。その様はまるで。
「どこぞの報道現場だな、これは」
「いい得て妙ね」
キサカの感想に、アウリーを探すラジィも同調する。
あまりにも多い人波でははぐれるどころか、むしろ離れるタイミングを失ってしまう。二人は一緒にいながら別々の人を探して、波というよりは森に近い人の群れをかき分けていった。
キサカが嫌気を抱くのに、十分な時間がたった。どうも予定より少し遅れているようで、生徒たちのざわめきや無駄な動きが多くなったのも、それを促している。
「あ、いたわよ」
不快に呟いたのはラジィで、その元凶はこの人混みの中でも綺麗に映える金髪だった。太陽色は、この人込みの中でもはっきりと目に捕える事が出来た。凄いものだ。そしてその隣にアウリーが座っていたというのもまた不快の一因である。
会いたくない人と話す友を見ても、事情を知る彼女は怨むことも出来ずにため息だけつく。結構可哀想な立場にあるのだ。知っているのに、キサカは意地悪した。
「行かねぇの?」
わざと聞いたとすぐに気付き、剣呑な目つきを向ける。
「アウリーにこっちに来るように伝えてよ」
伝言を渡すが、伝えてくれるだろうという期待がない。予想通り伝える気がないようなので、やりようなく恨めしそうにベンチを見た。何であんたがそこにいるのよ、という感情が手に取るように解って、ついおかしくなった。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷