エイユウの話 ~秋~
「痛々しい嘘だな」
「痛々しくなんか無いわよ」
「元ファン倶楽部オリジナルメンバーが入れ込んでないなんて嘘、痛々しいだろ」
抱かれて当然の感想に、ラジィも少し苦笑いした。それでもすぐに飄々とした顔を取りもどす。
「事情があるのよ、こっちにだって色々とね」
彼女が幅を広げた。南の庭に見える日時計が、開始時間十五分前だということを告げているのが見えたためだ。人並みを掻き分けてさっさと進む彼女に離されないよう、器用に人込みを抜けていく。
「事情って何だよ」
「何であんたなんかに話す必要があるのよ」
その言い方が気に食わなくて、どうにか聞き出そうとする。
「前振りをした罰だろ」
「前振りじゃないわよ。勘違いも甚だしいわ」
どんどん彼女は早足になる。セミロングの毛先が、ふわりと宙で遊び始めた。それを見て、さすがのキサカも感づく。
「・・・なんか機嫌悪くないか?」
「悪くなるような話題振るからよ」
今度はキッとキサカを睨んだ。彼女の言い分はもっともで、さすがのキサカも言い返せなかった。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷