エイユウの話 ~秋~
後から聞いてみれば、ノーマンの立つ舞台というのは、どうやら本校伝統と言われる、卒業資格取得者による、秋祭りのフィナーレを飾るものだそうだ。そんな大層な演劇の主役をやるために必要な度胸とか、そういう要素をすべて持っていたのだろう。
そんな中、主役の脱走劇は早くも校内で見ものになりつつある現状を知り、キサカはあきれかえってしまった。
「あんな人が最優秀卒業資格取得者最年少記録更新とか、世の中色々狂ってんだろ」
この学園は三年生から卒業資格が取れるとは言うものの、三年生でいきなり取得できるものはかなり少ない。六年間のうちに取れという規定が、重くのしかかるのが通常である。明の最高術師である彼ですら、今では卒業の「そ」の字も取れないだろう。
唐突な失礼発言に、アウリーは慌てて周囲を見て人気のないことを確かめてからこっそりと尋ねた。
「キサカ君は、記録所持者の方をご存知なんですか?」
「腐れ縁ってやつでね」
キサカとキースが同じ授業を受けるように、彼はノーマンとも同じ授業を受けることも多かった。負けず嫌いな彼が、最高術師の称号をもつ前は努力家であったということは秘密だ。ノーマンに会ってから、というオプションは欠かせないけれど。
いまさらながら、キースを初めて見たとき、「金髪に会ったのは初めてだ」と驚いていた。矛盾していると思いがちだが、それは嘘ではない。ノーマンは金髪であることを隠してはいなかったが、染髪はしていたのだ。そのため、実際彼の「金髪」を見たのは、先日が初めてだった。そして広まっていた「茶髪」情報は、ここから来ている。
なぜ今になって金髪を大っぴらにしたのか?そんな疑問が頭の中を渦巻くが、もとより行動の突飛なその思考を推察することはガラスに針を刺すくらい不可能といって良い。理解する気のないキサカにとってはなおさらだ。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷