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エイユウの話 ~秋~

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「皮肉ですか?」
「おお、お前やっぱ俺と似てんな」
 心の底から嫌な顔をしたはずだったが、ノーマンは気にせずになぜか感心した。思いのほか表情は豊かなようだ。とはいえ、もちろん理解と感情は一枚岩にならないもので、心の中に真っ黒い不快感が溢れだしてくる。そしてそれが、ノーマンを急激に冷ました。
 元の淡々とした表情で、後輩に感想をこぼす。
「俺も初めて薦められたときは、やっぱり皮肉だと思ったよ」
 彼に薦めたのは、同じ金髪の叔父だったという。皮肉ではないと言われると、頭の中はますます混乱した。ノーマンは本を机に置いたまま席を立つ。
「辞書片手に読んでみろ。どうせ成人してすぐに読んだって、あんま変わんねぇからよ」
「は?」
 本心をいえば、こんな忙しい時期にそんなことしていられるかと憤慨したいところだ。だが、その前に相手に逃げられてしまっては、今何を言ったところで意味がない。いたとして、人の話を聞いてくれるような人には思えないのもまた事実だが。
 彼の置いていった本に、面倒臭さと嫌悪感を抱きながら手を伸ばす。有名な本だというのに、表紙はあまりにもシンプルで、映える色は題名だけ。あとはなんとなく人のシルエットに見えなくも無いものが、黒い背景の中にうっすらと見えるだけだった。
 悲愴思想。表紙だけでそんな感想を抱いた。この世界には珍しい、ただただ悲しいことだけを綴るような小説の総称だ。バッドエンドとも違うそれを、何故読む人がいるのか不思議でならない。が、今目の前にある小説は、題名からすぐにその類だと解ってしまう。

 ―――こんなものがベストセラーだなんて、狂信的だ。

 手に取った本を、借り物だというのに、力の限り手提げの中に突っ込む。高音を奏でるシャウダーを片手に、キースはその場を後にした。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷