エイユウの話 ~秋~
「俺の金髪は、こんなに綺麗に見えるんだってさ。女じゃなくても嬉しいだろ?」
きっと本当はそういう意味で付けられたわけではないだろう。が、そんなことは百も承知の様子だった。そこでふと気付く。
この人の強さは、前向きな精神だ。
彼の中に自身を否定する要素は無く、だからといって自惚れているわけでもない。現状をいかにして良くとらえるか。そういう面がとても優れているのだ。プラス思考とか、そういうことなんだろう。
「気付いたか。だったら非人もわかるだろ?魔禍も一緒だ。人で無いと言われたなら、神であればいい。人並み以上の努力と才能を必要とするが、幸い高台には慣れてるだろ?」
そういってニヒルに笑った。ついつられてキースも笑ってしまう。この人が自惚れだと感じない原因は、彼がそれだけ努力をしてきたからだ。
ところで、何故キースに話しかけてきたのか?それを問うと、彼は思い出したように鞄から一冊の本を出した。それはだいぶ前に出版されて今だに高い支持を得ている小説。
「黄金の術師(ジャーム・エワ・トゥーロル)・・・ですか」
「あれ?反応薄いな、既読か?」
「いえ、まだですが・・・」
秀才だからと勘違いされがちだが、キースは読書も勉強も好きではない。ただのんびりするか、体を動かすか、彼の好みはこの極端な二択に分かれていた。
とくに件の本は読む気が起きなかった。いつだったかのベストセラーになった小説だ。古い文献を翻訳しただけだという者もいるほど、その物語は現実味に溢れていて、今でも本屋に行けば大量に鎮座されている。
しかし、古い文献の翻訳と言われるということは、それだけ文章が難解だということだ。しかしそれゆえ、若者たちから「大人への登竜門」としても人気があった。大抵は成人記念に贈られ、いまや社会常識といっていいほどの著名本だ。キースが読んでいないとノーマンが推察した理由はそこにある。
ノーマンは「黄金の術師(ジャーム・エワ・トゥーロル)」をテーブルの上に置くと、それをキースのほうへやる。本を見てから訝しい顔で先輩を見ると、金色の長めの髪を後ろできゅっと縛っていた。解説する気のないようなので、しかたなく再度本に視線を戻す。
鮮やかな黄色の文字で書かれた題名に、つい皮肉を感じた。黄金の術師(ジャーム・エワ・トゥーロル)とは、ジャームの術師ということだ。たとえ検討がはずれて主人公がアルディでも、黄金の名がつくアルディなんて、現実に居れば彼のように迫害対象になるだろう。非現実で退廃的な小説。「黄金」のキースがそれを薦められることを良しとしないことくらい、どんな馬鹿だって想像は容易なはずだ。ましてや相手は成績最優秀卒業取得者。だとしたら言いたいことは一つしかない。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷