エイユウの話 ~秋~
「・・・ネージスト先輩?」
「金糸雀でいいぞ、魔禍の」
「・・・僕のことはキースと呼んで下さい」
キースの称号にある魔禍とは、ノーマンが使われた「非人」と同等の意味があり、決して気分のいい名ではない。言葉の意味を説明すれば、「非人」は「人にあらず」、「魔禍」は「魔力で作られた(者)」という意味である。どちらも「化け物」ということだ。不機嫌極まりない顔で反論したのに、ノーマンが驚いてからにやりと笑った。笑う印象が全くなかったため、少し目を丸くする。とはいえ無神経なのか神経が太いのか、どっちとも評価しがたい人種だと感じた。金糸雀を許可した彼に、仕返しのように尋ねる。
「先輩もいいんですか?金糸雀なんて」
この世界で金はありふれた金属で、文明発展の遅れるジャームの使う金銭の単位だ。また先述したがジャームというのも、金色に由来した呼び名である。
それに金糸という言葉自体が、金髪やジャームを指す言葉だ。そのため、金糸雀なんて最低の称号なのである。それを自信満々にいう彼に対しぶつけたその質問は、完全に失礼以外の何者でもない。
が、ノーマンは怒るどころか、いきなり突っ伏した。どうしたのかと思ったが、しばらくしてから顔をあげて無意味に叫ぶ。
「俺にここまで言う奴はキサカ以来だ!」
幸いガヤガヤとうるさかったため、その叫びは周囲の数人にしか届かずにすむ。ノーマンはキースの真向かいに、どかっと勢いよく腰を下ろした。先ほどまでキサカが座っていた席だ。長い腕を組み、ふんぞり返るところは似ているかもしれない。
「教えてやるよ。俺が金糸雀と呼ばれて良い訳を。ついでに非人も教えてやろう」
本当は二人分の食器を片しに行きたいところだったが、説明させる気にさせておいて、さっさと席を立つ勇気は無かった。単純に、失礼なことを言ってしまったがために、今離れては何らかの武力制裁を受けそうで怖い、というのもある。
困惑した顔を隠さないキースを無視して、彼は一枚の写真を取り出した。黄色い、小さな鳥が映っている。思わず感想がこぼれ出た。
「凄い・・・、綺麗な黄色だ」
「だろう?これが金糸雀らしい。俺も写真でしか知らないけどな」
初めて見た件の生き物に、目を丸くしてノーマンを見た。驚いたというよりも、信じていないといったほうがいい顔つきをしている。そこへさらりと言い放たれる。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷