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エイユウの話 ~秋~

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『・・・残念ながら私だけで』
 落ち込ませる気はなかったのだが、確かに来ても彼女にしか益がない。キースがいる状況では、話し合うことも不可能だろう。隠す必要はあまり感じていなかったが、こそこそ動くことには若干の楽しさを感じつつある。それにこの件に関しては、アウリーに逆らう気も意見する気もない。
「んじゃ、俺が向かうわ」
 アウリーの現在地を尋ねてから通話を切る。昼食の食器をさげようとお盆の上に皿を重ねていたキースが、ぽかんとした顔を向けていた。
「誰かと待ち合わせ?」
 そう聴いておきながら、アウリーだろうと推測は立っていた。キサカがあんなに優しく話す相手なんて、彼女以外に知らない。ラジィが相手なら、もっと乱暴に対応をしていただろう。しかし、彼は明言しなかった。
「ちょっとな。休憩時間まだあるし、遅れたらフォロー頼むな」
「難しい課題だね。じゃあ、お皿は僕がさげておくよ」
「サンキュー」
 そう残して席を離れ、混雑した食堂を器用に小走りで駆け抜けていった。その背中はなんだか楽しそうで、落ち着いた風情のある彼にしては珍しい光景だった。
 誰か他に仲がいい人と会うのだろうか?ふと疑問を抱く。相手がアウリーなら、隠す必要はない気がしたのだ。この前のノーマンの台詞から、キサカはずっと単独プレーをしてきたようだし、そんなに楽しげに待ち合わせる人も少ないかもしれない。
「・・・もしかして、誰か好きな人でも出来たのかな?」
 邪推だと思いつつも、だんだん気になり始めた。知っている人なのか、明の術師かどうか、同学年の人なのかなどと、多くの疑問が泡のように湧き出してくる。仕舞いには恋愛相談なんてしてきたら面白いななどと、揶揄する感想まで出てきた。
 そんな彼の肩に、ぽんと手が置かれた。キサカが戻ってきたのかと思ったが、わざわざ人を驚かすようなことはしないと思い直し、違う人だとわかる。恐る恐る振り返ると、そこにいたのは、先ほど話題に上がった人物だった。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷