エイユウの話 ~秋~
一方のアウリーは、なかなかラジィを見つけることも出来なかった。二人はやっている仕事も同じだ。そのため大体の目処があったのにも関わらず、しかし見当たらなかったのだ。昼食に誘うどころか、割り当てられた仕事すら危うくなってしまう。
彼女たちがしているのは、多くの人々が訪れるために設備される、臨時カフェテリアの準備だった。大きな教室一室を一時改装し、料理の手順やメニュー決めを行う仕事である。その中でも今回割り当てられた仕事は、内装のデザインだ。そのためまた教室の机を出したり、雑巾がけ、ワックスがけなど、綺麗にする作業を単調にやっているはずだったのだが。
「アウリー、こっちこっち」
振り返ると、教室の入り口でラジィが手を振っていた。どうやら一度磨いた教室を汚さないよう、隣に移動して会議が行われていたらしい。アウリーが入った時には、内装の大部分が決定され、色づけなどの議論がなされていた。とはいえ出て行ったときも同じようなことをやっていたので、全く進んでいないといっても過言ではない。
こっそりと尋ねる。
「ラジィ、今日のお昼、食堂に行きませんか?」
「あたしもそう思ってたんだけどねぇ・・・。今回あたしたち、昼食は抜きになりそうなのよ」
「へ?」
予期せぬ事態に、思わずぽかんとした。事情を知らないラジィは、ただ昼食抜きということに驚いたのだと勘違いする。そのため呆れるよりも、同情してきた。
「前年に比べて三日も取りかかりが遅いんだって。つまり、のんびりしてると間に合わないかもしれない状況なのよ」
その口調は説得と言うより、ただの愚痴だった。けれども言われてみれば、この間もそんなことを言っていた気がする。その時はまだ一日遅れだった気がするが。ちなみに前年は秋祭り前日ぎりぎりに完成し、何とか間に合ったと有名だ。その日より三日も遅れているということは、予定通りのお店にならないで終わる可能性も否めないということを指す。昼食が抜きになっても、誰も不満が言えるような状況ではなかったのだ。
当然話を持ち出す暇もなく、昼食を断られてしまった。
作品名:エイユウの話 ~秋~ 作家名:神田 諷