骸骨と姫
「ドレスも、料理も、王子様のところにあるものと、かわらないことを」
お姫様は産まれてから一度だって、固い生地で肌を痛めることも、料理を不味いと思ったこともありませんでした。ドレスやベットはすべるように柔らかく、料理はいつも温かく工夫が凝らされていました。
この世間から忘れ去られたような塔で、それらを準備することがどれだけ大変なことか。
それが骸骨の優しさだと。
だからお姫様は、他の誰でもなく骸骨の笑顔が見たかったのだと。
お姫様は窓から月の光が射しているのに気がついて、そちらに顔を向けました。
よく、お姫様はその窓から空を見上げておりました。
孤独は寂しいことです。
それでも、お姫様は一人ではなかったから。
月の光は冴え冴えと塔を照らしました。
朽ちた塔は、薔薇の骸を抱えて、深(しん)と瞼を閉じました。
息さえ凍るとてもとても寒い朝でした。お姫様を探す王子様達が塔を訪れました。
外壁のところでは、お姫様が乗ってきたであろう馬が木に繋がれたまま不機嫌そうに鼻を鳴らしておりました。
塔はまるで、何十年も人の手が入っていなかったかのように、苔生し崩れかけています。王子様は、焦る気持ちを落ち着かせながら、一足とびにお姫様の部屋まで駆け上がりました。
ドアは開いておりました。
そうして、飛び込んだ王子様は立ち尽くしました。
窓から、朝日が差し込み、ベットの下で寄り添ったお姫様と骸骨を照らしました。霜が降り凍ったお姫様の頬と睫を、朝日はきらきらと輝かせました。
このうえなく幸せそうに微笑まれているお姫様の手は、骸骨の手の上に、優しく重ねられておられたのでした。
めでたしめでたし