二人の王女(6)
「しかし、この土地をこのまま走り続けるのは、危険ではないか?」
「あぁ、もしエンゲルン国が見張りを出していたなら、我々は簡単に見つけられてしまう。しかし、あの森には入れない。我々まで感染してしまえば、元も子もない」
「では、このまま行くか」
「そういうことになるな」
アークは頷くと、馬の横腹を蹴った。どす黒い紫に変色した森を横目に、再び馬を走らせた。
ひたすらに剥き出しの大地を駆ける。馬に乗り馴れないあすかは、いい加減お尻が痛み馬から降りたい衝動に駆られたが、そんな戯言を云っているような余裕は一行にはなかった。再び馬の歩を止めたのは、数時間が経過してからのことだった。
「人がいる」
マルグリットは厳しい口調で云った。
あすかはシェハの背から前を覗き込んだが、人の姿などまるで見えなかった。だが、他の者には見えているようだった。
「様子がおかしい」
「あれは…毒に冒されているのでは?」
慎重に馬を走らせ、人影の見える方へと近づいていった。あすかにも人影の姿が捉えられるようになった頃には、百メールと離れていなかった。
それは人というより、ジョハンセを思わせるような異常な風貌だった。あの毒に汚染された樹々と同じような紫に肌は変色して、身体のあちこちから同じ色の蔓が伸びている。あすかは、思わずシェハの背に隠れた。
「大丈夫か!」
マルグリットが馬を走らせ、その人物に駆け寄る。マルグリットは馬を降り、人影のすぐ傍にまで歩み寄った。
うぅ…と、唸り声が聞こえる。どうやら、恰幅の良さや声から、男性のようだった。
「何があった!」
「毒が…国が…」
「エンゲルンの者か?」
「…そ、うだ…毒が…」
「国を蝕んだのだな」
「王も、騎士も、すべて…」
「マルグリー!」
アークが声を上げた。マルグリットが振り返る。そのときだった。突然倒れ込んでいたその男性が、激しい叫び声を上げた。
一瞬何が起こったのかわからなかった。マルグリットは身を翻し、男性に向き直る。しかし、一歩遅かった。毒に冒された男性は、突然立ち上がったと思いきや次の瞬間、ばんっと云う大きな音と共に、身体が木っ端みじんに爆発した。
「マルグリー!」