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二人の王女(6)

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 樹々の毒の汚染は、少しずつではあるが広がっているようだった。先刻までは五十メートルは離れていたどす黒い樹々たちともう二十メートルと離れてはいなかった。マルグリットたちは道を替え、できるだけその樹々たちから距離を取るようにしているようだった。それでも、その感染した暗黒の森は、こちらへとじりじりと歩み寄ってくる。

 ようやく森を抜けたときには、陽は天球の真上に昇っていた。おそらく正午くらいであろうと察しがついた。
 森を抜けた先には、草一つ生えない剥き出しの無機質な土地が広がっていた。
 その向こうには、また違った森が広がっている。そして、その森の向こうに、この世界へ来て始めて人の住まいらしい建物を見た。しかし、その上空に薄らと紫のベールのような幕が、街全体を覆うようにして存在していた。
「あれは、エンゲルン国だな」 
「あの紫のベールのようなものは何?」
 あすかが聞くと、キーチェが「あれは占術師の防御術が掛けられているのだ」と、答えた。
「本当に何も知らないのだな、アスカ王女は」
 王女と云われ、あすかはどこか居心地の悪さを感じ、「あすかでいいです」と訂正した。
「しかし、エンゲルン国の様子がどこかおかしいようだ。人の姿がない。もしかすると、あちらの国にも毒が回っているのかもしれぬ」
 マルグリットはそう云ったが、あすかには街の建物の様子はおろか、人の有無まではまったく見えなかった。
「よく見えるのね」
「おまえには見えないのか」
「全然。眼鏡もしてないし、視力は一もないもの」
「役に立たぬ目だな、そんな目では敵にやられるぞ」
 敵に襲われることなんてないし…と思いつつも、あすかはその言葉を飲み込んだ。
「エルグランセの洞窟はまだ見えないの?」
 あすかが訊ねると、マルグリットは「もう見えている」と、反対方向を指差した。
 マルグリットの指す先を見ると、ずっと向こうに森に囲まれて崖のようなものが見えた。
 どうやって創られたのか、土を積み重ねてできたような巨大な岩の塊が、誰も寄せ付けないような厳格な空気を漂わせて存在している。あすかは、思わず唾を飲み込んだ。
「あのエンゲルン国は、エルグランセの洞窟と目と鼻の先。もしあの国にも毒が浸透しているのであれば、すでにラズリーを採りに向かっていてもおかしくはない」
「一刻を争うな。行こう」
作品名:二人の王女(6) 作家名:紅月一花